その「幸せっぽいもの」、必要ですか? 劇団雌猫が 『無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます』 を読んで考えた【劇団雌猫 座談会(前半)】

対談・鼎談

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無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます

『無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます』

著者
コイル [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784049140613
発売日
2022/01/25
価格
737円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

その「幸せっぽいもの」、必要ですか? 劇団雌猫が 『無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます』 を読んで考えた【劇団雌猫 座談会(前半)】

[文] カドブン

構成・文=松永麗美
劇団雌猫イラスト=kamochic

■主人公と同年代女子の劇団雌猫が語る、幸福論と日々を幸せにするヒント

第6回カクヨムWeb小説コンテスト キャラクター文芸部門大賞受賞作である『無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます』(著者:コイル / メディアワークス文庫/KADOKAWA)。
生活も恋もすべてを後回しにして仕事に邁進してきた莉恵子と、住む場所を夫の裏切りとともに失った芽依。頑張りすぎる女子と頑張るのをやめた女子ふたりが、突然始まった同居生活を通して自分らしく生きる姿を描いた本作の発売を記念して、劇団雌猫からひらりささん、もぐもぐさん、かんさんをお招きした座談会を開催しました! 主人公ふたりと同年代の働く女子でもある劇団雌猫が語る幸福論と日々を幸せにするヒント、前後編にわたってお届けします!

▼後編はこちら
https://kadobun.jp/feature/talks/entry-45320.html

■劇団雌猫紹介文

ひらりさ、もぐもぐ、かん、ユッケの4名からなる平成生まれのオタク女性ユニット。インターネットでは語られない「周りのあの子」の本当のところを知りたい!という純粋な興味から2016年冬にスタートした同人誌『悪友』シリーズが話題沸騰となり、商業活動を開始。著書に『海外オタ女子事情』 (KADOKAWA)、『浪費図鑑-悪友たちのないしょ話-』(小学館)シリーズ、など。3月10日に『世界が広がる 推し活英語』(学研プラス)発売予定。  
Twitter:https://twitter.com/aku__you

――まずは劇団雌猫のみなさんの感想を聞かせていただけますか?

もぐもぐ:まず、表紙がすごくかわいくてワクワクしますよね! でもストーリーはかわいいイメージそのままってわけじゃなく、しっかり地に足つけたお仕事ものでもあって。最後までいろいろな部分に共感しながら読みました。

かん:私は普段ファンタジーや歴史物みたいな自分とまったく違う環境・設定の作品を読むことが多いから、この作品は主人公たちが「もしかしてTwitterのフォロワーさん?」って思うくらい、すごく身近な設定なのが新鮮だった! 普段の生活を知らないオタク友達とかも、実は主人公たちみたいに仕事やプライベートのことで悩んでるんじゃないかなって想像しちゃうくらいリアルで、読んでいて楽しかったです(笑)。

もぐもぐ:「フォロワーにいそう」、わかりすぎる。いわゆる「働く女子」ものの作品で、主人公がしゃかりきに働いてると「いやそこまでは頑張れないわ……」ってちょっと引いちゃうこともあるけど、莉恵子は結構気が抜けたところやだらけてるところもあって、そこがリアル。「働く女性像」としてこういうタイプの主人公が出てくるのも素敵だなって思いました。

ひらりさ:私もお仕事ものって読んで励まされることが多いからよく読むんです。この作品はのっけからガチリアルなビジネス上の修羅場が描かれるので、最初から目が離せなかった(笑)。でもただワーカホリックな部分だけを描くんじゃなく、そこに絡む人間関係も丁寧に書かれているのが良いですよね。この作品っていろんな人と人とのコミュニケーションの話でもあると思うんだけど、私はメインキャラクターの莉恵子と、まさに冒頭の修羅場の原因となる元同僚の茜の関係がめちゃくちゃ好きで。お互いに才能ある茜と莉恵子の仕事を巡るさや当てに、一気に引き込まれました。

もぐもぐ:茜が「完全な嫌なヤツ」じゃないところもいいよね。単純に喧嘩別れして終わりじゃないところも良かった……ってこれ以上いうとネタバレになってしまうので詳しくはお読みいただいて。

――ちなみに劇団雌猫のみなさんは、ルームシェアの経験ってありますか?

もぐもぐ:私は20代の頃してました! 私も莉恵子と芽依のように大学時代の友達と2人で暮らしてたから、主人公たちと似た環境だったかも。一緒に住んでいた子は仕事柄、昼夜逆転生活になることもあったから、莉恵子と芽依みたいにしょっちゅうごはんを一緒に食べたりするような暮らし方ではなかったけど、でも毎日すごく楽しかったです。
ひとりで暮らしてる時って、仕事できついことがあると家に帰ってからもその悩みにとらわれて嫌な気持ちのまま寝たりすることもあったんだけど、友達と暮らしていると「もうダメだ、つらい」ってなっても、家に帰れば友達が一緒にだらだらテレビを見たり話を聞いてくれたりする。そういう存在にすごく助けられてたなって、この作品を読みながら思い出しちゃいました。今はコロナで友達に限らずいろんな人と会いにくい状況だけど、「最近どうしてる?」くらいの会話がいつでもできるくらいの友達って、やっぱり大事ですよね。

――みなさんも、もともとはお友達だったところから始まっているんですよね。

ひらりさ:そうなんです。今回初めて劇団雌猫を知った方のために説明すると、劇団雌猫ってそれぞれの趣味がちょっとずつ重なっていた友達関係からスタートしているんですよ。

かん:もう友達期間より雌猫期間の方が長くなってきたね。

ひらりさ:お互い20代半ばの、知り合いたての頃は、ストレス発散がてらよく飲みに行ったりしてたけど、雌猫活動でかかわるようになってからは、むしろあまり対面しなくなったよね。今はそれぞれが自分の仕事を頑張りつつ雌猫活動を並行しているから、仕事の愚痴や話したいことがある時は雌猫LINEに送ってる。だからグループラインがシェアハウスの共用スペースみたいな感じなのかも。

もぐもぐ:本当しょうもない会話ばっかりしてるよね(笑)。

ひらりさ:Twitterだとお互いに「反応あってもなくてもいいや」って感じだから、雌猫LINEみたいに「反応をくれ!」って言える場があるのはいいよね。

もぐもぐ:たしかに。4人いれば誰かが何かは返すし。

――気のおけない友人関係って貴重ですよね。本作でも旧知の親友だったお互いの存在が先へと進んでいくきっかけになっていますが、でも現実問題、「友達がいないし作る機会も無い」って方も結構いると思いませんか?

ひらりさ:莉恵子のことは私もちょっと羨ましいんですよ。私は高校時代の友達なんて今じゃ全然繋がってないし、あと莉恵子って仕事仲間とも友達に近い関係性を築いているじゃないですか。いろんなところでいろんな人とちゃんとネットワークを作れていて、いいな〜って思いますよね。

かん:私も最初読んだ時、主人公たちって最初から信頼できる親友がいるし持ち家もあるし、「実は結構チートやん!」って思ったんですよ。でもこの2人は一緒に住むことにしても次どうするかにしても、行動を全部自分自身の判断で決めてますよね。それってつまり、仮に親友って存在がなかったとしてもそれぞれが次のアクションに踏み出す力を持ってるってことじゃない? 自分ひとりであっても大事なのはそこだと思うんですよね。

もぐもぐ:実際今って、コロナで人間関係が狭くなったり断絶したり、わりと孤独な状況になってる人も多いんじゃないかな。だから今周りにそういう存在がいないなら、自分から誰かに連絡してみるのも良いかも。めちゃくちゃ久しぶりな友達とか、あと、毎日会う会社の同僚でも、普段しないような雑談をしてみたら意外な発見があるかもしれないし。

ひらりさ:莉恵子と芽依は学生時代の縁だったけど、オタクの場合はオタク趣味で繋がってるから、その共通の趣味以外にもうひとつくらい何か共通項を見つけられれば、「一度ゆっくり話してみません?」みたいなきっかけになるかもしれないよね。

もぐもぐ:うん、こういう状況の今だからこそ、人と話すのって本当に大事だよね。全部を自分の中だけで考えているとやっぱり煮詰まっちゃうから。誰かと軽く交わす会話くらいのちょっとしたことでも、刺激は得られるし。この作品を読んで、私自身も「最近まじで友達と話してなさすぎる!」って思ったよ。

ひらりさ:結局ソーシャルメディアを使うことにはなっちゃうけど、FacebookやTwitterで自分から近況を発信しておくと、意外と連絡がきたりすることもあるかも。最終的に会ったり喋ったりしなかったとしてもそれはそれとして、まずは周りの人に反応するようなところから初めてみてもいいんじゃないですかね。

――ところで、雌猫さんたちも莉恵子や芽依のような大ピンチに見舞われたことってありますか?

もぐもぐ:ありますあります!この歳になればみんな一度はあるんじゃない?

――大きな危機に瀕した時の心持ちとして、大事なことって何だと思います?

ひらりさ:自分のやっていることを正しいと思い過ぎないことかな。好きでやっていることの中で何か辛いことが出てきた時に、「でも好きだから」で続けない、そこにこだわり過ぎない。これは仕事でもプライベートでも同じだと思うんですけど、「ちゃんとやってきたから報われるまで頑張る」って思い込まないことですよね。

もぐもぐ:頑張れば頑張った分だけ固執してしまうっていうのもあるかもしれないよね。

ひらりさ:だから芽依はそれまで頑張ってきた場所を捨てられたのがすごいと思う。

かん:私は今走っている人生とはまったく違うところに選択肢を作るっていうよりも、今の人生を選択肢のひとつとして考えられるかどうかが、めっちゃ大事だと思ってて。今までの人生全部捨てていきなり全然違う人生に走るってかなりの勇気がいると思うんですけど、極端なもの含めて取りうる選択肢を何種類か並べてから今の人生を見てみたら「意外と良いな」って思うこともあるかもしれない。0か1かじゃなく、グラデーションで考えると良いんじゃないかな。

――壁にぶつかった時って「逃げたい」とか「変えたい」って気持ちが先走って、極端な思考に陥りがちですもんね。

ひらりさ:特に女性は20代後半から体調を崩しがちになったり、心身ともにいろんな面で不安定になることも多いので、思い込みや感情にとらわれ過ぎず判断したいですよね……。弱っている時にこれまでの全部を否定してしまうと、結局それまでとは別の何かにはまるしかなくなるみたいなところもあるから、かんさんの言うようにこれまでの自分を認めてあげつつ、ちょっと違うこともしてみようかな、くらいの加減が良いのかなと。
莉恵子と芽依にしても、住環境を変えた結果として人間関係や仕事が付いてきたのかなって思うんですよね。仕事とか家事とかやってることは変わってないんだけど、ベースになる部分の環境を変えることで結果として人生が動いたのかなって。

かん:芽依ちゃんもそれまで夫やその家族に対して行なっていた家事、仕事を全部捨てたわけじゃなく、同じ仕事を、場所を変えて莉恵子という別の人に提供している。ただ与えるだけだった関係性と提供する場所こそ変わっているけど、全然違うことをしているってわけではないよね。

ひらりさ:「自分のことは自分でちゃんとする」と莉恵子が宣言して、芽依にルームシェアに関する契約を提案するところ、すごく良いシーンだよね。

もぐもぐ:いくら自分が料理や掃除が得意でも、関係性に甘えて相手の領域まで全部をやっちゃうのは良くないってことでね。あれは良かったよね〜。

かん:これで芽依ちゃんがいきなり「主婦をやめてドラマーになります!」とか言ってミュージシャンを目指し始めたらそれはまたちょっと極端だなって思うけど(笑)、ちゃんと関係性や場所を整えたうえでそれまでやってきたことと地続きなことをしているっていうのが、まさにグラデーション的な選択だなって。

もぐもぐ:それでいうと、芽依ちゃんがある職業に興味を持っていくのも良かった!「自分がこれまでやってきたことや手にしてきたスキルの中で、本当にやりたかったことってなんだろう?」って考えた結果であって、ちゃんとこれまでの人生とつながっているって過程も含めてすごくいい。
たぶんそうやって落ち着いて洗い出せるようになったのも、環境を変えたからこそなんだよね。
毎日同じことばかりやっているとそれが当たり前になっちゃうけど、意識すれば少し環境を変えることはできる。新しい何かを手に入れなくても、自分がやりたいことはもう手の中にあるのかもしれない。それって、すごく良い気付きだなと思った。

【後編へ続く】

▼後編はこちら
https://www.bookbang.jp/review/article/727757

■作品紹介

その「幸せっぽいもの」、必要ですか? 劇団雌猫が 『無駄に幸せになるのをや...
その「幸せっぽいもの」、必要ですか? 劇団雌猫が 『無駄に幸せになるのをや…

無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます
著者:コイル
カバーイラスト:海島千本
メディアワークス文庫/KADOKAWA刊
大好評発売中
定価:737円(本体670円+税)

お仕事女子×停滞中主婦の人生を変える二人暮らし。じぶんサイズのハッピーストーリー
仕事ばかりして、生活も恋も後回しにしてきた映像プロデューサーの莉恵子。旦那の裏切りから、幸せだと思っていた結婚生活を、住む場所と共に失った専業主婦の芽依。
「一緒に暮らすなら、一番近くて一番遠い他人になろう。末永く友達でいたいから」そんな誓いを交わして始めた同居生活は、憧れの人との恋、若手シンガーとの交流等とともに色つき始め……。そして、見失った将来に光が差し込む。
これは、頑張りすぎる女子と、頑張るのをやめた女子が、自分らしく生きていく物語。
【本書だけで読める、番外編「十六歳の神代と、ネズミの姫」を収録】

公式作品ページ https://mwbunko.com/product/322107000143.html
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その「幸せっぽいもの」、必要ですか? 劇団雌猫が 『無駄に幸せになるのをや...
その「幸せっぽいもの」、必要ですか? 劇団雌猫が 『無駄に幸せになるのをや…

KADOKAWA カドブン
2022年02月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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