<東北の本棚>癒えぬ悲しみ 共感呼ぶ

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月夜の森の梟

『月夜の森の梟』

著者
小池, 真理子, 1952-
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784022518002
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>癒えぬ悲しみ 共感呼ぶ

[レビュアー] 河北新報

 恋愛や性愛を通し、人間の生死を描く小説家が最愛の人を失った悲しみをつづったエッセー52編を収める。孤独な心情を包み隠すことなく、ありのままに刻んだ言葉が胸に突き刺さる。

 夫の藤田宜永さんと著者はそれぞれ直木賞を受賞した夫婦として知られた。40年近く前に出会い、恋に落ちる。長野県軽井沢町の森に住み、作品を書き続けたが、2年前、藤田さんががんのため死去、時が止まった。しばらくして心象風景をそのまま言葉にしたくなったという。

 冒頭の「夫・藤田宜永の死に寄せて」ではこう記す。「それにしても、さびしい。ただ、ただ、さびしくて、言葉が見つからない」。言葉を仕事とする作家のこれほど痛切な叫びはないだろう。作品で何度も書いた「孤独」という言葉の実態は何も分かっていなかったと知る。

 2人は、互いが互いの「かたわれ」だったという。夫から「年をとったお前を見たかった」と言われたこと、余命を意識した夫が1本の痩せたタンポポを大切に扱っていたこと、幸福だった秋のひととき…。残された者の喪失感や寂寥(せきりょう)感が、梟(ふくろう)の声が響く森の四季とともに記される。所々に仙台で過ごした高校、予備校時代の記述もあり、興味深い。

 エッセーは2020年6月から1年間、朝日新聞に連載。「哀(かな)しみからの復活、再生の方法など、私にはわからない。その『ワカラナイ』ということ、それ自体を書いてきた」と語る著者は自分のために書いた。だが書くことによって多くの人の共感を呼ぶ。夫や妻、子、親、ペット…。死別の形は違っても、「心の空洞に吹き寄せてくる哀しみの風の音」は皆、似ていた。読者とつながり、励まされたという。

 生きている限り、大切な人との別れは来る。本書はそんな時、何も言わず寄り添ってくれる友人のような存在になるかもしれない。(裕)
   ◇
 朝日新聞出版03(5540)7793=1320円。

河北新報
2022年2月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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