日本の勝ち筋は「食」に 小泉進次郎が経営者と語る日本の成長戦略

対談・鼎談

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おいしい経済 - 世界の転換期 2050年への新・⽇本型ビジョン -

『おいしい経済 - 世界の転換期 2050年への新・⽇本型ビジョン -』

著者
楠本 修二郎 [著]
出版社
JBpress
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784847071171
発売日
2021/12/10
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

小泉進次郎が日本の勝ち筋は「食」にある、と考える理由

[文] JBpress


楠本修二郎氏が提唱する食を起点とした「脱成長時代の成長戦略」は、小泉進次郎氏のほか、水道橋博士など著名人から評価されている。

「我が意を得たり」。

衆議院議員・小泉進次郎氏をしてそう言わしめたのは、カフェ・カンパニー株式会社代表取締役の楠本修二郎氏が記した『おいしい経済』である。

長年に渡る経済の停滞ムードに加え、いまだ終息が見えないコロナ禍の最中にある日本。我々は、次の世代にどんな未来を残していけるのだろうか。その議論の場として、小泉氏はインスタグラムを活用。『日本の勝ち筋を考える』と題し“インスタライブ”を定期的に開催、有識者との意見交換を行っている。

去る1月21日配信回では「日本の食編」として、昨年末に自著『おいしい経済』を上梓した楠本修二郎氏がゲストに登場した。

同書のテーマとして描かれる「食からはじまる新しい経済と未来戦略」に日本の「勝ち筋」を見出した、という小泉氏。果たして本書から読み解いた「日本の勝ち筋」とは?

書籍の引用を交えながら、ふたりの対談の様子をお届けする。

***

――小泉、楠本両氏はもともと旧知の仲。東日本大震災で被害を受けた、東北地方の復興を支援する団体『東の食の会』の代表理事を楠本氏が務めており、復興大臣政務官をその当時務めていた小泉議員が応援を行ったのが出会いのきっかけだ。

live内で小泉議員が取り出した『おいしい経済』の書籍は、発売から間もないにも関わらず表紙が取れてボロボロに。鞄に入れて持ち歩いていたのだという。

小泉:これからコロナ禍が終息した後、どういった分野であれば日本が世界のトップクラスになれるのか。その方向性を見定めながら、官民あげて次の時代を作っていかなくてはいけません。そういう日本の「勝ち筋」のひとつが、僕は「食」であると考えていました。そんなとき、楠本さんが『おいしい経済』を出版された。読んでみて、まさに「我が意を得たり」と思ったんです。

本書の中では、食を軸とした地方創生はもちろん、日本には世界中のおいしいものをよりおいしく進化させる力がある、といった「日本の食」のポテンシャルが、国内外たくさんの事例を交えて紹介されている。楠本さんは、どういう思いでこの本を書くに至ったのでしょうか?

楠本:きっかけは東日本大震災です。カフェ・カンパニーという会社は現在90店舗弱の飲食店を経営していますが、もともとはエリアごとにある「その土地らしさ」をカフェの形で表現し、地域ブランドを作っていこう、という目線が原点にあります。ですから震災を機に、東北という地域とそのコミュニティを支援したい、という想いで『東の食の会』の代表理事になりました。

ところが実際、東北の人たちの力強さから学ばされたのは私のほうでした。農家だった人たちが自分でブランディングを考え、農業を飛び越えて食品の製造から販売までを担う新規事業に取り組んだ。復興のヒーローと呼べるような、立派な経営者がたくさん誕生していったんです。

それを見ているうちに湧いてきたのが「食産業がみんなで連帯すれば、もっと強くなれるのに」という思いでした。というのも、私のいる外食産業は大体25~6兆円市場と言われていますが、日本の食産業全体で見るとものすごく裾野が広く、農業や食品加工、流通といった全ての合計は約117兆円にもなる。日本の基幹産業である自動車産業が約62兆円ですから、ほぼ倍の規模があることになります。


「おいしい経済」より引用

それほどの大きさがありながら、農業は農業、加工は加工、外食は外食と各業界が縦割り構造になっているため、今回のコロナ禍のような大きなソーシャルインパクトがあると、すぐ倒れてしまいそうになる。東北の人たちがそうであったように、分野を越えて連帯していけば、「食」はもっと強い産業になるのではないか、と。

そう思ったにも関わらず、この10年ほどは自社の経営にばかり意識が向いており、サプライチェーン全体の構造に働きかけるところまで行動が至りませんでした。そんなときにやってきたのが新型コロナウイルスです。このコロナ禍はある種の危機ではありますが、むしろ食産業全体に対して一気に連携を促す機会にもなるのではないか。そう考えてこの本を書いたんです。


対談を行なった、小泉進次郎氏(左)と楠本修二郎氏(右)。

――「日本の食」が連帯することが、未来の勝ち筋につながる。その理由として、日本の食には「おいしい」「健康的」「サステナブル」という3つの強みがある、と楠本氏は続ける。

楠本:1つめの「おいしい」についてですが、日本の食は世界で非常に高い評価を受けています。たとえば、日本はミシュランガイドの星の数が圧倒的に世界1位。中でも東京はミシュランの本家であるパリを大幅に上回っています。海外にある日本食レストランは、2005年当時で約2.5万軒でしたが、2020年には約15万軒と、わずか10数年で10万軒以上増えている。

また、訪日外国人旅行者をターゲットにした意向調査では、「次に海外旅行したい国・地域」として日本が1位。しかも日本を選んだ人の50%以上が、日本を訪問したい理由として「食事がおいしいから」と答えています。

2つめの「健康的」について、日本の食はカロリーが低く、健康に良いことが科学的に証明されています。そして3つめが「サステナブル」であることです。

小泉:「現在の食生活でかかる環境負荷」については、本の中にも書かれていましたね。

楠本:そのとおりです。もし地球に住む約80億人がアメリカの一般的な食事を食べ続けると、地球が5.5個分必要になる、という試算があります。しかし80億人が日本の食を食べたなら1.8個分で済む。それでも地球の限界ラインは越えてしまうのですが、他国の料理と比べると環境にかかる負荷が低い、と言えるでしょう。


「おいしい経済」より引用

――同書の中に収録されている、さまざまな「日本の食」の活用事例のうち、小泉議員が注目したのは、これまで日本が強みとしてきた「製造業」と「食」による新しい連携だ。

小泉:これからカーボンニュートラルが進み、産業構造が大きく変わっていくと、ある産業から違う産業へと雇用が移っていくケースが出てくるでしょう。そのヒントの1つが、楠本さんが紹介していた吉祥寺のハンバーガーショップ『ベックスバーガー』の事例にあるのではないか、と思ったんです。

楠本:厨房の省人化をするために、テックを使って調理の自動化を取り入れているお店ですね。

小泉:その自動調理機器を作ったのは、大手自動車メーカーの下請け工場だとありました。自動車で培った技術を飲食業界という異なる分野に生かす、こういった事例は興味深いな、と。

また洋菓子メーカー『ユーハイム』が、AIを活用したバウムクーヘン製造オーブン『テオ』を開発している話にも驚かされました。

楠本:この開発のきっかけは、社長の河本英雄氏がかつて南アフリカを訪問したとき、スラム街にいる子どもたちの状況を見て、「この子たちにスイーツを届けたい」と思ったことに始まります。アフリカにも卵と小麦はありますから、もし日本にいながら機械を通じて製造ができれば、彼らにおいしいお菓子が届けられる。

小泉:最終的には、テクノロジーの力でバウムクーヘンを焼く機械を輸出し、職人の有無に関わらずアフリカでもどこでもおいしいお菓子を味わえる世界を目指していく……という、日本の技術力を生かしたとても大きいストーリーですよね。

楠本:はい。今後の日本の勝ち筋という意味で、日本の工業技術で食を進化させるこれらの事例は参考になると思います。

――元環境大臣である小泉議員は、現在「日本の食」が抱える問題のひとつ、「食品ロス」についても、これから変わらなければいけないことを言及した。

小泉:国連WFP(ワールド・フード・プログラム)が1年間で食糧支援をする量が約420万トン。しかし日本は世界中から大量の食品を輸入しているにも関わらず、年間で約600万トンもの食料を廃棄しています。こういう現状は絶対に変えていかなければいけない。

日本国内の食品ロスは年間612万トン(2017年度)。その内訳は事業系・家庭系がほぼ半分ずつで、国民ひとりあたり約48キロもあると言われています。試算によると世界6位、アジアではなんと1位の多さです。~『おいしい経済』より~

小泉:僕が環境大臣を務めていたときは、飲食店でもし食べきれなかった料理があれば、それを自宅に持ち帰ることを後押ししていました。ですが残念ながら、持ち帰りをお店側に断られてしまうことが多いと聞いています。こういった持ち帰り文化を浸透させる後押しをしたいのですが、事業者側の声として楠本さんのご意見を聞かせていただけますか?

楠本:シェフが熱い思いで作った料理です。僕らとしてはもちろん、残したくないし、捨てたくない。ただPL法や食品衛生上の観点では、もし食中毒などの問題が発生したとき、店側の責任になってしまうのでなかなか推奨しきれない面があります。

私の友人で「フードロスバンク」代表の山田早輝子氏は、「私の意志で持って帰ります」と書かれたシールを作り、持ち帰る食材に貼るという働きかけをしています。どういう方法だと問題をクリアにできるのか、みんな試行錯誤しているんです。

行政にお願いをするならば、ルールをクリアにしてほしいですね。行政区によって基準に差があったり、指導も曖昧だったりする。店側は決して断りたいわけではないと思うので、そういったことがなくなると進めやすくなるのではないでしょうか。

小泉:国としては、消費者庁・厚労省・環境省の連携のもと、もし持ち帰りで何かあった場合は自己責任です、と整理はしているんです。それが浸透していないということですよね。

コロナ禍をきっかけに、テイクアウトを行う飲食店がかなり増えましたが、テイクアウトを推奨しながら食べ残しの持ち帰りはNGというのは少しずれている感じがします。僕は、テイクアウト文化が根づきつつあるこのコロナ禍の先に、持ち帰りという習慣を根付かせていきたい。

食品ロスの問題は誰もが取り組める活動の1つですから、今後もっと深堀りしていきたいと思っています。

楠本:賞味期限切れ食品の廃棄など、食品ロスの中にもいろいろな問題がありますが、楽しみながら問題を解決していけるといいですよね。

――そう言いながら、ボトルを取り出し「実はこのインスタライブの前に、ビールを1杯飲んでしまいまして……」と笑う楠本氏。ラベルには、『パンからつくったペールエール』と書かれている。

楠本:実は、テクノロジーでイノベーションを創出し続けている研究者(科学者)集団である『リバネス』とともに、「食品ロスを解決するシンガポール発のフードテック企業」として本の事例にも登場しているシンガポールの企業『クラスト』と、ビールを協働開発したんです。ブーランジェリー『メゾンカイザー』やクラフトビール醸造所『ベクターブルーイング』に協力をいただき、食品ロスで廃棄されるはずだったパンを材料に使っています。

地球環境に良いというだけでなく、味が良くないと消費者には認めてもらえませんから、ちゃんとおいしいものを作ろうと思いまして。飲めば飲むほど、環境問題の解決になってくれます。

小泉:どうか飲みすぎないように(笑)。ということで、あっという間の30分でしたね。

『おいしい経済』には、これからの日本は食を起点に農業・漁業と観光を一体化することで地方を元気にできる可能性があること、世界に対して「日本の食」をもっと売り出していけることなど、日本の勝ち筋につながるたくさんの事例がある。雇用を確保し、賃金を上げていけるよう実行につなげていきたいです。ありがとうございました!

JBpress
2022年2月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

JBpress

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