最後の砦となれ 新型コロナから災害医療へ 大岩ゆり著

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最後の砦となれ ~新型コロナから災害医療へ

『最後の砦となれ ~新型コロナから災害医療へ』

著者
大岩ゆり [著]
出版社
中日新聞社
ISBN
9784806207900
発売日
2022/02/19
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

最後の砦となれ 新型コロナから災害医療へ 大岩ゆり著

[レビュアー] 近藤雄生(ライター)

◆難題との闘い緻密に記録

 コロナ禍が始まって丸二年。その間、感染者を受け入れてきた医療現場はどのような日々を送ってきたのか。その重要な現場の一つとなった愛知県・藤田医科大学の二年間を記録したのが本書である。

 同大学病院の取り組みは、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)の感染者受け入れから始まった。厚労省から依頼があると、大学や病院の幹部はみなすぐ了承。「救急患者は絶対に断らない」というのが、病院が堅持してきた方針だからだ。以来一貫して、この未曽有のパンデミックに向き合ってきた。

 DP号、第一波から第六波まで、状況は次々と変化した。迅速で臨機応変な対応が必須だった。DP号対処時は、感染リスクによる院内の区域分け(ゾーニング)を短時間で完成させることから始まって、周辺住民の不安感や病院職員のストレスへの対応など、解決すべき問題が次々に発生する。国内感染拡大後はさらに難題が積み重なる。手探りの治療、末期感染者や家族へのケア、風評との闘い、ウイルスの研究、ワクチン接種、株の変異…。各状況において数々の工夫を行いながら、藤田医大は要請のあった感染者のほぼすべてを受け入れ、「最後の砦」たらんとしてきた。

 冒頭で著者は、この病院を書くことになったのは、病院側からの声かけがきっかけだったと明記している。しかし同時に、著者自身が過去の取材から病院に信頼を感じていたこと、さらに、病院の複数の幹部の言葉に後押しされたことも書いている。幹部たちはこう言った。ただ将来に活(い)かせる記録を残したい、だから「藤田医大を美化したり特定の人物をヒーロー扱いしたりする必要は一切ない」と。

 その意思の通り、感動ストーリーのようなものはほぼ語られず、緻密に事実だけを伝えているのも本書の特徴だ。そしてそのことが、病院と著者の真摯(しんし)な姿勢を示している。

 藤田医大関係者の意識は、すでに次なる巨大災害にも向いている。大切なのは平時の取り組みだ。その時のためにいまできることは何か。本書はそうも問うてくる。

(中日新聞社・1650円)

科学ジャーナリスト。2020年4月、朝日新聞社から独立。著書『新型コロナ制圧への道』など。

◆もう1冊

内田樹著『コロナ後の世界』(文芸春秋)

中日新聞 東京新聞
2022年2月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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