♪知らない街を歩いてみたい 達人と歩くシン・銀座史

レビュー

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銀ぶら百年

『銀ぶら百年』

著者
泉, 麻人, 1956-
出版社
文藝春秋
ISBN
9784163914930
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

♪知らない街を歩いてみたい 達人と歩くシン・銀座史

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 名コラムニストによる東京・銀座の歴史探訪記。「銀ぶら」という言葉ができたのは大正4、5年ごろだという。それから「百年」あまり。世代の違いを超越して、社会や世相を象徴するような特別な場であり続ける。そんな街の魅力は、どうやって育まれてきたのか。

 土地に根ざした老舗や名店を訪ねて、主人から昔の逸話を聞き、店に残された資料を分析して、日本屈指の繁華街の歴史をひもといていく。ファッションやグルメ、音楽、広告、建築……文化についての鋭く軽やかな論考は著者ならでは。

 初出は、銀座の商店会が運営するウェブサイトに連載されたエッセイで、地元のタウン誌『銀座百点』が編集を担当した。地元の人をガイド役にしているからか、描き出されるシン・銀座史には温かみがある。

 東京で生まれ育った著者。幼稚園の時に母に連れられてデパートに来たり、中学の友人とレコードの物色に繰り出したり、という個人的な思い出と現在の景色を重ね合わせてもいる。慣れ親しんだ場所のひとつなのだ。それでも、気づいていなかったことはあるし、予想外のエピソードにも出会う。「いつか……」と思っていた場所を訪ねることもできたりして、文章から驚きと喜びがあふれ出す。

 ♪知らない街を歩いてみたい、と歌った人がいるけれど、非日常の時間、未知の空間はそれだけで楽しいもの。街歩きの達人は、たとえいつもの道でも、歴史とディテールに目を向ければ、探索の喜びは無限だと教えてくれる。

 評者はこの十数年、東京都中央区に住んでいる。地元本だと思って読み始めたが、綴られている話は、ほとんど初耳案件ばかり。まったく知らない街のようだった。

 次の銀ぶらでは、1丁目の佐々木商店で伝統商品の「つやふきん」を買って、5丁目の三笠会館で看板料理・鶏の唐揚げをいただこうかな。

新潮社 週刊新潮
2022年3月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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