『コロナ政策の費用対効果』
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岸田政権における「失敗の本質」
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
オミクロン株の感染拡大はピークを過ぎたようだが、海外のごとく急激に陽性者数を減らすことなく、高止まりの状況が続いている。岸田政権の支持率もコロナ対策を批判されて急激に低下している。新型コロナ禍は、国内で発生が確認されてから二年が経っても世論の最大関心事だ。
原田泰『コロナ政策の費用対効果』は、コロナ対策のさまざまな側面を費用対効果から冷静に読み解く。国境での検疫、PCR検査やアベノマスクの損益、緊急事態宣言の効果、国民一律10万円給付やGoToキャンペーンの問題点などを、データと論理をもとにかなり辛口に検証している。現在の岸田政権ではワクチンの追加接種の遅れが深刻だ。おそらくこの「遅れ」が、新規陽性者数高止まりの原因のひとつだろう。本書はオミクロン株が猛威を振るう前に出版されたものだ。しかし重症者を減らすワクチンの効果が甚大で、他方でワクチンの購入費用が割安であること。こんなお得な政策を、政府がうまく利用できていないこと、要するに岸田政権の失敗が本書を読めば簡単に分かるだろう。
評者が一番心に残ったのは、本書で展開されている「ケインズ精神」である。これは単に不況だからお金を配るという単純なものではない。大恐慌のような状態に陥らないために、あらゆる政策を総動員していくこと。その実現に必要な政治的リーダーシップだ。まさに岸田総理に欠け、今の日本が最も渇望しているものだ。