『物価とは何か』渡辺努著(講談社選書メチエ)

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物価とは何か

『物価とは何か』

著者
渡辺 努 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784065267141
発売日
2022/01/13
価格
2,145円(税込)

書籍情報:openBD

『物価とは何か』渡辺努著(講談社選書メチエ)

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

長引くデフレ、政策詳論

 第1次オイルショック後の1974年には、消費者物価指数は前年比23%も上昇した。原油価格の高騰がその原因と思われがちだが、著者はそれまでの日銀と政府の政策で貨幣の供給が過剰になっていたことが真因としている。その後は一転、物価の上昇は緩やかになりバブル期にもさほど上昇しなかった。そして90年代半ばからいわゆるデフレが発生し、金融緩和等の政策が打たれたにもかかわらず四半世紀もこの状況が続いている。

 著者は物価と金融政策を専門領域とする日銀出身のマクロ経済学者。本書では、物価理論の発展の歴史とその最前線の研究を豊富な事例を交えてできるだけ平易に紹介しつつ、なぜかくも長くデフレが続いているのか、そしてデフレ脱却を目指した当局の金融政策がなぜ奏功していないのかについて詳細に論じている。

 日本の消費者や企業には、今後もデフレが続くという「相場観(ノルム)」が染み付いており、それは異次元金融緩和などのインフレ予想に働きかける政策をもってしても変わらなかった。それ故、消費者は値上げを許容せず、企業も客離れを恐れ「小型化」や「減量」を交えながら表面価格を据え置くという、世界的に見ても際立った日本の「価格硬直性」が、デフレが続いている一因であると著者は論じている。そしてデフレを脱却しないと企業の収益は上がらず後ろ向きのコストカットにばかり目が向き、投資の拡大やイノベーションによる経済成長が起きないと説く。

 折しも世界的にインフレ懸念が起きている。日本の状況はどうなるのか、好循環に向けての転換となるか、スタグフレーションに陥らないか、好循環が実現するためには何が必要か、様々な論議が高まって来よう。その意味でも本書は、日本経済の行く末に思いを馳せる(は)人々にとってタイムリーな一冊である。ただ、好循環が持続するためには、マインドが変わるだけでは不十分で、潜在成長率を上げるための別の方策が必要という意見も多い。今後の物価を取り巻く状況を注視しつつ、幅広い論議を期待したい。

読売新聞
2022年3月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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