「NHKから国民を守る党」とは何だったのか? 選挙ウォッチャーちだい著

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「NHKから国民を守る党」とは何だったのか?

『「NHKから国民を守る党」とは何だったのか?』

著者
ちだい
出版社
新評論
ISBN
9784794811974
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

「NHKから国民を守る党」とは何だったのか? 選挙ウォッチャーちだい著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

◆政党そのものがメディアに

 ポピュリズム旋風が吹き荒れる中、既成政党とは異なる運動で支持を伸ばした小政党が諸国で注目を集めている。日本では、二〇一九年の参議院選挙でれいわ新選組とNHKから国民を守る党(以下「N国」)が議席を獲得したことが話題となった。

 特に現職の参議院議員が結党したれいわ新選組と比べて、N国は議会外勢力が組織した政党であり、NHK受信料問題を主要な公約に掲げる点で異様であった。地方議会でも何人かの候補が当選しており、今や無視できない政党なのである。

 ところがN国は、恫喝(どうかつ)や電凸(電話での抗議)、反対者へのいやがらせといった醜聞に事欠かず、党首立花孝志氏は有罪判決を受けている。その動向を、徹底的に追跡したのが本書である。取材に反発するN国からのいやがらせと、そのやりとりのプロセスも語られている本書は、臨場感で読ませる本だ。

 N国は、選挙運動や宣伝活動をYouTubeなどにアップロードし、拡散を図る。選挙はその動画の最大のネタである。政治のためにネット・メディアを利用するのではなく、ネット・メディアで話題をさらい、広告収入などを稼ぐために選挙を利用している。いわば政党そのものがメディアなのである。

 だが、N国の活動分野には特徴がある。まず受信料問題を話題とするNHKへのこだわりである。次にいやがらせなどで決着をつけるため裁判を多用している。そして選挙といっても地方議会を重視している。公共放送・司法機関・地方自治体は、いずれも、独立性と自治を基盤とし、国民生活になくてはならないものである。つまり、N国は話題性のこと欠かない制度にしがみつくことで、しぶとく生き残りを図っている。単なる泡沫(ほうまつ)政党ではないのである。

 だが立花氏は、排外主義を打ち出す日本第一党の桜井誠党首に、しばしば選挙の得票で大差をつけられている。大きな支持を得られないN国は、あるとき急成長することがあるのか。ネットと政治のあり方の今後が問われている。

(新評論・1650円)

全国の選挙を取材し、候補者の政策や投票結果などを投稿サイトnoteで報告している。

◆もう1冊

西田亮介著『情報武装する政治』(KADOKAWA)

中日新聞 東京新聞
2022年3月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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