被災地で置き去りにされているもの そして生き残った者たちにできること

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最期の声 ドキュメント災害関連死

『最期の声 ドキュメント災害関連死』

著者
山川 徹 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784044006303
発売日
2022/02/16
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

被災地で置き去りにされているもの そして生き残った者たちにできること

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

 冒頭で、熊本地震の後に亡くなった四歳の女の子の事例が綴られる。生まれつき心臓に疾患があり、震度七の地震で入院先の病院に倒壊の恐れが生じたため、急遽、転院が必要となった。その際に必要な処置ができずに症状が悪化、地震から五日後に亡くなったという。手術後の助かるはずの命だった。

 著者は母親の割り切れない思いを静かに聞く。その言葉に滲む「なぜ」という思いから呼び起こされるのは、このような形の死を私たちの社会はどのように受け止めればいいのか、という問いだ。そんな一筋縄ではいかない問いかけとともに、著者の長い取材の旅は始まる。

 本書は「災害関連死」をテーマにしたノンフィクションである。災害関連死とは、災害が直接の原因ではないが、被災後の避難生活や環境の悪化の影響で病気になり、死亡に至ったケースなどを指す。その数は阪神・淡路大震災以降、五千件以上。著者は政府による被災者個人への救済制度のきっかけとなった羽越豪雨(一九六七年)を振り出しに、三陸、福島、神戸といった大災害の現場を歩き、関連死の当事者や支援者のもとを訪ねた。その過程が伝えるのは、日本の災害支援がどのような試行錯誤の中で形作られてきたかという歴史であり、今も様々な課題を抱える認定制度の現状だ。

 読みながら、何より意義を感じた部分がある。それは〈被災地には、数多の教訓が、野ざらしのまま置き去りにされている〉という本書に貫かれる問題意識だ。避難所でのエコノミークラス症候群、被災後の鬱による自死、復旧作業員のくも膜下出血……。個々の被災のプロセスと課題に光を当てるために、事例の一つひとつが丁寧に拾い上げられる。その地道な検証が「災害による死とは何か」という本質的な問題を浮き彫りにし、災害の頻発するこの国の公助のあり方という、より大きなテーマにもつなげられていくのだ。

 タイトルにあるように、災害関連死は「最期の声」と呼ばれる。〈生き残った者たちが、遺された声をくみ取り、次に起こる自然災害の際の支援や政策に活かし、復興から取り残される人をひとりでも減らすべきなのではないか〉。そんな思いを胸に、著者はこの「最期の声」を聞き集め、それを社会化しようとする人々の列に連なった。多くの人たちの哀しみに触れ続ける、長く、苦しい取材だったろう、と思う。その中でこれまで語られてこなかった災害関連死の現場を見つめ、様々な教訓を引き出した実直な姿勢に心うたれた。

新潮社 週刊新潮
2022年3月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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