『自考』
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人生を楽しむ自らの価値観 50代からのモノサシを提唱する
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
じこう。あまり馴染みのない言葉だけれど、意味は一目瞭然。自ら考えること。日々あれこれぼんやり考えてはいるものだけど、しっかり自分の頭で熟思することができれば、新しいやり方やアイデアを生むことができるし、楽しく生きることが可能になる、と提案する。
著者はテレビ朝日の元アメリカ総局長。共同通信社などでもさまざまな現場を取材してきた。記者として積み重ねた体験をもとに「自考」の大切さを伝えるエピソードを紹介していく。「教科書を信じない」というノーベル賞学者の言葉。「個の自立(自律)」を組織文化に掲げて成長を続ける企業……。
自身の失敗談も。記者になりたてのころ、スクープ記事を書いて会社から賞をもらったことを先輩ジャーナリストに報告したら「賞自体にどんな意味があるんだ。その記事は誰かの、何かの役に立ったのか」と諭されて、はっとさせられたという。
賞や肩書きはわかりやすいモノサシ。多くの人に支持されやすいし、モチベーションにもなり得る。でもそれにこだわり過ぎると大切な志や良心を見失いかねない。記者として自考するきっかけになったそうだ。
共感できたのは、日本社会が息苦しいのは、モノサシが少なすぎるからだという著者の見立て。職場や学校や家や地域……さまざまな場面で同調圧力が働く。空気を読むことを強いられ、多数派の価値観に押し込められる。〈価値観は本来、人の数だけあっていいはずです。人の数だけ、居場所があるはずです〉。
自分を苦しめるものは遠慮なく断ち切って、自分を肯定できる独自のモノサシを持とうと呼びかける。それは勇気のいることだが、きっとそのほうが人生が楽しくなるはずだからと。〈人生は楽しいことが一番大事だと、私は50代になって、ようやく理解できました〉。
読んでいて何度も、ふわっと心が軽くなる瞬間が訪れた。