『ミッション・エコノミー Mission Economy 国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた』マリアナ・マッツカート著(ニューズピックス) 2310円

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ミッション・エコノミー 国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた

『ミッション・エコノミー 国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた』

著者
マリアナ・マッツカート [著]/関美和 [訳]/鈴木絵里子 [訳]
出版社
ニューズピックス
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784910063195
発売日
2021/12/22
価格
2,310円(税込)

書籍情報:openBD

『ミッション・エコノミー Mission Economy 国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた』マリアナ・マッツカート著(ニューズピックス)

[レビュアー] 西成活裕(数理物理学者・東京大教授)

「月を往還」 日本の実践

 ムーンショットといわれる日本の研究開発事業をご存じだろうか。これは走り出したばかりの国家プロジェクトだが、もしも国民の多くがまだ知らないとしたら、それは日本にとって大問題である。なぜならこの事業は本書でいうミッション・エコノミーを実践しているものであり、多くの企業や国民の参加と賛同がその推進に必須だからだ。

 著者のマッツカートはイギリスの経済学者で、イタリアや南アフリカなど各国政府の産業政策アドバイザーとして引っ張りだこである。提唱しているミッション・エコノミーとは、まず政府が公共性のあるミッションを掲げ、それに多様な企業や市民を巻き込み、皆で経済を成長させながら同時に公共の利益も達成していく、というものだ。政府は進むべき方向を自由市場に任せるのではなく、政府自体が公共性に根差した大志を持ってリードし、そして官と民がリスクとリターンを平等に分かち合う。企業は政府に寄生するのではなく、両者は共生していくのである。本書には著者が各国で行ってきた政策の具体例と進め方が詳細に書かれており、実践的な内容になっている。

 かつて米国ではケネディ大統領が「人類が月に行って帰還する」というミッションを立てた。それに向かって官民が共同で進むことで、その実現だけでなく社会に大きな波及効果をもたらした。ここからムーンショットという言葉が生まれたが、国民の多くが大胆な社会目標を共有し、同じ方向を向いてさえいれば、一度や二度の失敗も許容できるだろう。こうなるためには、国のトップが分かりやすく魅力的に国民に語るパフォーマンスも重要だとマッツカートは説く。

 日本のムーンショットは1000億円以上の国家予算が計上されている巨大プロジェクトだ。そのミッションとは、予防医学や環境、食糧問題など九つあり、官民で長い議論を経て決められたものである。ぜひ多くの人と課題と夢を共有しながら進めていってほしいと願う。関美和、鈴木絵里子訳。

読売新聞
2022年3月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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