『妖怪民話』
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<東北の本棚>方言の語り 生き生きと
[レビュアー] 河北新報
戦時中、香川県の小豆島で祖母の昔話を聞いて育った著者の頭に刷り込まれたのが、幽霊話だった。その後、祖母が他界し、「口から出る昔話は、語りの本人が亡くなったとき、消えてしまう」と考える。約25年前から全国の語り部を訪ね、ホームページで発信。中から41話を収録した。
東北関係は、鬼が人を食べる「雪鬼」(鹿角市)、げたのお化けが登場する「古寺の化け物」(栗原市)、ヘビにだまされた娘をカニが助ける「蟹(かに)の恩返し」(大崎市)など10話。背筋が寒くなる話あり、ほのぼのとした話あり、東北の民話は実に多彩であることが分かる。
本書の特徴は、地元の方言を使った語りを生き生きと再現していること。著者が秋田県で取材した時、語り部が共通語では気乗りせず、方言で語り直すと目を輝かせて話したという経験から、「借りてきた言葉では言い尽くせない感情がある」とみる。民話と方言は不可分なのだろう。
民話は、普通の人々によって親から子へと、文字ではなく、口伝で何百年も受け継がれてきた。「雪がたくさん降る時は外に行くな」「物を大事にする」。各話にはそんな先人たちからのメッセージも込められている。民話が持つ力、奥深さを改めて感じさせる一冊だ。(裕)
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柏艪舎011(219)1211=1870円。