追跡!謎の日米合同委員会 別のかたちで継続された「占領政策」 吉田 敏浩著

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追跡!謎の日米合同委員会

『追跡!謎の日米合同委員会』

著者
吉田 敏浩 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784620327136
発売日
2021/12/27
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

追跡!謎の日米合同委員会 別のかたちで継続された「占領政策」 吉田 敏浩著

[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)

◆「密約体系」の正体に迫る

 年明け早々に爆発した新型コロナウイルスの第六波は、とりわけ沖縄県を悲惨な状況に陥れた。日本の検疫を免れる米軍関係者の出入りが圧倒的に多いからである。

 日米地位協定に起因する底なしの「穴」。にもかかわらず政府には見直す気がまったくない…と、ここまでは広く知られた現実だ。ただし――。

 地位協定にはその先があった。外務、防衛両省等の官僚と在日米軍司令官らで成る「日米合同委員会」。協定の運用に関する協議機関という建前だが、実態は似て非なり。

 本書によれば、憲法をはじめとする日本の全法令はおろか、地位協定そのものをも超越した“密約体系”に他ならない。米軍の都合で民間機等の航行を制限し、一定の空域を一定期間、軍事空域として差し出させられる「アルトラブ」や、墜落事故の被害者らが損害賠償を求める裁判に米軍は利益を損なう情報の提供あるいは証人の出頭を拒否できる特権など、彼らの日本国内における異様なオールマイティの数々は、この合同委員会で合意されてきたのである。

 国民生活を実質的に支配する議事の内容は、しかも原則非公開で、国会議員にも秘匿されている。法理を尽くした情報公開訴訟も、住民の命と暮らしを無視できない全国知事会による提言も、ブラックボックスは受け付けない。

 日米合同委員会の存在を、かつて松本清張は「別の形で継続された占領政策」だと評したという。はたして現代に至っても、この国は植民地であり続けているのみならず、近年はその従属性をいや増してさえいるのではないか。

 憲法改正など百年早い。真(ま)っ当(とう)な独立を目指すなら、癌(がん)細胞の一つひとつを慎重に剥がし取り、解放されていくことから始めなければならない道理だ。その手順を踏もうとしない、というより癌細胞に寄生してやまない政権による改憲論は、米国の意のままに操られる以外の道を自ら閉ざしてしまう愚に他ならないと、評者は確信している。

 秘密のヴェールに覆われた密約体系の正体に、敢然と迫り続けている吉田敏浩の仕事は実に有意義だ。同業者として嫉妬を禁じ得ない。

(毎日新聞出版・1980円)

1957年生まれ。ジャーナリスト。著書『森の回廊』『反空爆の思想』など。

◆もう1冊 

山本章子著『日米地位協定』(中公新書)。「過剰な優遇」を政治学者が追う。

中日新聞 東京新聞
2022年3月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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