「熱く、逞しく、しぶとい」苦境に立つ伝統演芸の生命力

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浪曲は蘇る

『浪曲は蘇る』

著者
杉江 松恋 [著]
出版社
原書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784562071456
発売日
2022/01/08
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「熱く、逞しく、しぶとい」苦境に立つ伝統演芸の生命力

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 著者は当初、落語会の客席にいた。オヤ、最近いないなと思ったら、神田伯山をオッカケているという。次は浅草の木馬亭に入り浸っていると風の噂に聞こえてきた。木馬亭と言えば浪曲だ。フィールドの広さに驚いていると、しばしして本書が出た。今、集中力と出来映えの素晴らしさにまた驚いている。

 浪曲を牽引した玉川福太郎の突然の死から始まる。事故に遭ったのは妻みね子(曲師)の実家のある山形県酒田市。そこへ急を聞いて駈けつける弟子たち。東京から、公演先から、一点へ吸い込まれるように集まる。小説のような展開だが、さあ巨星を失った弟子たちはどうなる。

 うなるカリスマと異名を取った国本武春の死にも触れられる。私はこの人と二人会で共演し、今後は互いの会のゲストにと意気投合したのだが、病で突然逝ってしまった。

 両巨頭を失い、弟子云々ではなく浪曲界全体の問題となった。昭和30年代をピークに衰退の一途を辿った浪曲は、本当に滅んでしまうのか。タイトルにある通り、蘇りつつあるのでご安心されたしとは言える状況になった。

 浪曲は浪曲師と曲師(三味線)によって作られる。そこに譜面はない。両者の阿吽の呼吸によって一席が成り立っている。その各自の創意、工夫、生き残るための努力が綴られる。

 結果、浪曲師も曲師も増えた。かつては兼業であったが、浪曲一本で食えるようにもなった。古典のよさを伝えつつ、意表を突くような新作も驚くほど増え、しかも喝采を浴びるまでになった。

 浪曲は食わず嫌いの人が多いと思う。「浪花節のようなことを言うな」と揶揄され、アナクロの象徴のようにも言われたが、今や言う方がアナクロである。

 著者は、浪曲は「熱く、逞しく、しぶとい」と言う。木馬亭のみならず、近くに浪曲が来たら、是非一度、見て聴いていただきたい。

新潮社 週刊新潮
2022年3月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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