『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』
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猥雑性とわくわく感 ドンキ劇場の吸引力を探る
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
チェーンストアのドン・キホーテ、通称ドンキが苦手だという人は少なくない。
ヤンキー系家族がドヤ顔のワンボックスカーで乗り付けるイメージ。「♪ドンドンドン、ドンキ、ドン・キホーテ」と歌う強烈なテーマソングが流れる店内。無秩序に見える商品配置。全体のごちゃごちゃした雰囲気も落ち着かない。
その一方で、あの猥雑性と、わくわく感が堪らないという人も多い。店内をエンターテインメントの劇場に見立てることも可能だ。
他のチェーンストアやデパートにはない吸引力があり、時々無性に行きたくなる場所かもしれない。
谷頭和希『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』は、ドンキの不思議な魅力に迫る一冊だ。新たな地域に進出する際、既存の建物を「居抜き」で使う。地域に溶け込むと同時に、「ドンキらしさ」をアピールするには、ペンギンの巨大なオブジェが必要となる。
またジャングル感を生み出すのが「圧縮陳列」だ。予期せぬ商品との出会いを演出している。さらに重要なのが店舗のありかたを店長に一任するシステムだ。チェーンストアの常識を打ち破る「権限委譲」が最大の武器となっている。
結果的にドンキは地域の多様な文化を侵食する存在ではなく、むしろ「地域と連続性を持った祭り的な異空間」だと著者。社会学から人類学までを導入しながら、ドンキやチェーンストアを介することで見えてくる、現代日本の深層を捉えようとした意欲作だ。