全てはテクストの上にある! “読む”を解き明かす文芸評論

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謎ときサリンジャー

『謎ときサリンジャー』

著者
竹内 康浩 [著]/朴 舜起 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784106038709
発売日
2021/08/26
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

全てはテクストの上にある! “読む”を解き明かす文芸評論

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 多くの人にその名が知られている“名作”ほど、イメージが固定化されたままひとり歩きしてしまうことは多い。例えば、全世界で6500万部ともいわれる大ベストセラー『ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the Rye)』を世に送り出したJ・D・サリンジャー。彼の代表的短篇「バナナフィッシュにうってつけの日」は、主人公の拳銃自殺という結末で知られている。

 だが、この諒解自体を真っ向から問い直すスリリングな読みを展開し、かねてからのサリンジャーファンも未読の読者も双方夢中にさせている本が竹内康浩・朴舜起『謎ときサリンジャー』だ。昨年八月の刊行直後から各所で取り上げられ話題となり、年明けにもSNS上で評判が広がり続けたことから今年二月に重版が決定。文芸評論では異例の売れ行きと呼べるだろう。

 著者のひとり、竹内氏は『謎とき『ハックルベリー・フィンの冒険』』で注目を浴びたのち、新たな考察を交えた英語版が世界最高峰のミステリ賞「エドガー賞」の評論・評伝部門で日本人初の最終候補となった人物。今作の草稿を受け取った担当編集者は「すごいものを読んでしまった」と武者震いしたという。

「それこそ犯人が残した物的証拠をひとつひとつ積み上げるように、緻密な批評を組み上げていく。芭蕉の句から禅の思想と奥行きがどんどん広がる本ですが、ミステリファンの方が読んでも納得のいくような整合性と、知的興奮を兼ね備えた一冊だと思います」

 文学作品に“謎とき”を持ち込むことに忌避感を抱く人もいるかもしれない。だが、あくまでテクストに書かれた言葉を丁寧に拾い上げていくその手つきは、“読み解く”という行為の本質を体現している。

「実は僕自身、学生時代にアメリカ文学をかじっていたものの、サリンジャー作品はよくわからないことが多くて……。だからこそ作者であるサリンジャーの傷つきやすく不安定なイメージを物語に重ね合わせて読んだ気になっていたんです。ところが本作はそうしたお仕着せの合理性をとっぱらってくれる。本当の意味で“読む”体験の喜びを与えてくれるんです」(同)

新潮社 週刊新潮
2022年3月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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