『中世かわらけ物語 もっとも身近な日用品の考古学』中井淳史著(吉川弘文館)

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中世かわらけ物語

『中世かわらけ物語』

著者
中井 淳史 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784642059404
発売日
2021/12/20
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

『中世かわらけ物語 もっとも身近な日用品の考古学』中井淳史著(吉川弘文館)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)

神が宿る「自由な土器」

 「かわらけ」とは、比較的低温で焼かれた素焼きの土器であり、形状は直径10センチ前後から15センチの円形の小皿で、食器や酒を飲むときの杯として用いられ、使い捨てに近い使われ方をした。著者に言わせれば「日本中世の遺跡でもっとも多く出土する遺物」である。多い所では1平方メートルあたり遺物コンテナ1箱も出土するというこの土器を、著者は長年にわたり研究してきた。

 本書を読むと、中世考古学者が日ごろどんなふうに研究に取り組んでいるのかがわかって面白い。まずは出土した遺物を丹念に観察する。出てきた場所や、一緒に出てきた遺物と組み合わせ、さらに文献史料も読み込んでそれらの性格を推定する。遺跡の年代から出土遺物の使われていた年代を推定し、「編年」と呼ばれる作成年代の時期的変化を追う。考古学という学問に関心のある方は、この一連の作業を知るだけでも興味をおぼえるのではあるまいか。

 かわらけは政治・文化の中心である消費都市京都で大量に出土する。地方の戦国大名居館跡からも夥(おびただ)しく出土する例がある。それゆえ、天皇・将軍のいる京都への憧れや輸入といった政治史・流通史の問題としてこれまで注目されてきた。しかし著者は、全国から出土するかわらけがあまりに多様であることに疑問を持つ。出土するのは、京都産かわらけそのものというより、それまで独自の製法で作られてきた地域の伝統の上に、それを真似(まね)て「京風」に作られたものだからだ。そこで従来消費者の視点から考えられてきたかわらけを、作った側(工人)の立場に立って捉えなおそうとする。

 たどり着いたのは、「自由な土器」という結論だ。身分に関係なく使用され、材料となる土も選ばず、竈(かまど)も大がかりである必要はない。本書を読んで浮かんだのは「神は細部に宿る」という言葉だった。「あとがき」でも言及されていた。「細部に宿る」神々を見逃さない。その姿勢がかわらけの本質を浮かびあがらせた。

読売新聞
2022年3月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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