女パンクの逆襲 フェミニスト音楽史 ヴィヴィエン・ゴールドマン著

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女パンクの逆襲──フェミニスト音楽史

『女パンクの逆襲──フェミニスト音楽史』

著者
ヴィヴィエン・ゴールドマン [著]/野中モモ [訳]
出版社
Pヴァイン
ISBN
9784910511030
発売日
2021/12/23
価格
2,970円(税込)

女パンクの逆襲 フェミニスト音楽史 ヴィヴィエン・ゴールドマン著

[レビュアー] 岡村詩野(音楽評論家)

◆熱い反逆のクロニクル

 著者はロンドン出身の女性音楽ジャーナリスト。まだまだロック音楽が男性優位の七〇年代から、自らも音楽活動をしながら現場で体を張りペンで女性の息吹を伝えてきた。本書はそんな彼女の実体験に基づいて綴(つづ)られた、女性ミュージシャンによる反逆のクロニクルと言っていい。

 同じ女性でもショウビズ界で成功をおさめたスターは一切登場しない。主役はパンクの時代からオルタナティヴロックの九〇年代を経て、近いところでは二〇一〇年代までのインディペンデントな女性ミュージシャンたちだ。パンクの女王と呼ばれ、今なお大統領選挙ともなれば街頭で投票の呼びかけを行うパティ・スミスのような象徴的人物も出てくるが、熱心な音楽ファン以外にはあまり知られていないマイナーな存在がほとんど。著者はそれら当事者たちに丁寧な取材をしながら、当時彼女たちが味わった屈辱、それでも負けずに既成概念と闘った気骨をページに刻んでいる。

 中には性差だけではなく人種差別と戦う女性たちも少なくない。日本、中国、インドネシアなどのバンドへの記述は閉鎖的な状況を伝えているし、思わず目をそらしたくなる赤裸々な告白もある。だが、彼女たちの発言や著者の熱筆ぶりが最終的に伝えるのは、何より音楽を楽しみたいというその一点に突き動かされているということだ。それぞれの音楽の特徴に踏み込み、代表作の写真も掲載することで作品そのものの魅力をたたえ評価しようとしていることは同じ女性として嬉(うれ)しい。

 今、ザ・リンダ・リンダズという中国系を中心としたアメリカの十代の女の子のパンク・バンドが話題を集めている。拡散された動画で歌っているのはこんな内容。“あんたは人種差別主義者で性差別主義者の男!”。カッコいい曲だ。久々にパンク精神溢(あふ)れるバンドの登場に胸が騒ぐ。だが一方で、まだあどけなさを残す彼女たちに今なおこんな曲を作らせてしまう社会を憂う。人種差別主義者、性差別主義者、あるいは音楽や文化を不要不急と思っている者たちはこの本を読むがいい。

(野中モモ訳、Pヴァイン発行、日販アイ・ピー・エス発売・2970円)

『サウンズ』紙の編集を経てフリー。ボブ・マーリーの伝記など著書多数。

◆もう1冊

ジェン・ペリー著『ザ・レインコーツ 普通の女たちの静かなポスト・パンク革命』(Pヴァイン)。坂本麻里子訳。

中日新聞 東京新聞
2022年3月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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