<東北の本棚>感染症への両面的感情

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コロナ・アンビバレンスの憂鬱

『コロナ・アンビバレンスの憂鬱』

著者
斎藤環 [著]
出版社
晶文社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/心理(学)
ISBN
9784794972781
発売日
2021/10/27
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>感染症への両面的感情

[レビュアー] 河北新報

 新型コロナウイルスの流行が始まって3年目。いつ感染するか分からない恐怖や、まん延防止のために抑制的な生活を強いられる不都合から、一日も早くコロナ禍が収束してほしいと考えるのは、人類全ての願いといっても過言ではないだろう。

 一方で、給付金が支給されたり、リモート業務になって通勤地獄から解放されたり、何かしらの恩恵を受け「コロナ禍がもう少し続いてほしい」という人も少なくない、と著者は考える。そして、こうした両面的な感情を「コロナ・アンビバレンス」と名付けた。

 本書は、引きこもりに関する著作の多い精神科医が、新型コロナをテーマに書いた文章などをまとめた。副題は「健やかにひきこもるために」。コロナ禍以降目立つようになった、人々の妙な潔癖さ、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンへの期待やリモート医療の可能性など、さまざまな話題を取り上げている。

 特に、コロナ禍で制限されがちな「人と人が直接出会うこと」に対する考察は興味深い。「人は人と出会うべきなのか」と題した文章では、人同士が直接出会うことにより、相手から受ける不可避の影響を「暴力」と位置付け、その力や、それに直面したいという欲望などについて考えていく。

 別の文章ではコロナ禍以降、女性の自殺者が増えたことに触れている。著者は、井戸端会議などで愚痴をこぼし合ってストレスを解消する方法が難しくなり、孤立感を深めた結果と推察しており、人と人が直接会えなくなった影響を実感させられる。

 著者は北上市出身。精神科医、筑波大教授。「鬼滅の刃」ブームや愛猫を失った悲しみをつづったエッセーなど、コロナ関連以外の文章も収録する。(矢)
   ◇
 晶文社03(3518)4940=1870円。

河北新報
2022年3月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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