最先端テクノロジーを駆使した警察ミステリ『ヘパイストスの侍女』に著者・白木健嗣が込めた想い

エッセイ

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魅力的なキャラクターとしての天才 『ヘパイストスの侍女』著者新刊エッセイ 白木健嗣

[レビュアー] 白木健嗣(作家)

 作家を志したとき、魅力的なキャラクターを描きたい、という夢がありました。

 もちろんミステリーであればトリックや伏線、ストーリー、舞台等、重要な要素はたくさんあるのですが、これらはキャラクターに魅力がなければ色あせてしまうと思っています。

「魅力」は「個性」と言いかえてよいかもしれません。「個性」とは、変な名前や、人と違う発言、奇行ばかりが目立つ変人設定ではなく、並外れた知識・知能と、それらを基にした言動だと考えています。天才はその最たる例です。

 ミステリーにおける魅力的なキャラクターを考えたとき、頭に浮かぶのはいつも天才の存在でした。『御手洗潔(みたらいきよし)シリーズ』の御手洗潔や、『探偵ガリレオシリーズ』の湯川学(ゆかわまなぶ)、森博嗣(もりひろし)さんの作品に登場する真賀田四季(まがたしき)など、天才はいつも読者を楽しませてくれます。

 名探偵も天才の一種かもしれません。私は『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』で育った世代のため、どうしても彼らの存在を無視できません。しかしミステリーにおいて天才というのはもどかしい存在です。連続殺人は最後まで見逃す必要があるし、途中までは読者にバレないように推理する必要があるし、犯人はみんなの前で暴く必要があります。

 魅力的なキャラクターを描こうと思ったとき、読者を唸らせるだけの天才性と、謎を終盤まで残しておくというお約束のバランスに悩み、試行錯誤した結果、人工知能に行き着きました。当初思い描いていた天才とはかなり違うところに着地してしまいました。

『ヘパイストスの侍女』はサイバー犯罪対策課の捜査官と捜査一課の刑事を主人公に据えたITミステリーですが、人工知能マリスが推理を披露する場面も描かれています。

 人工知能は令和版の「安楽椅子探偵」になれるのではないかと思いますので、読者の皆様にもそのような観点でお楽しみいただけると嬉しいです。

光文社 小説宝石
2022年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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