30年続いたデフレがついに終わる? 新しい物価高に正しく備えるために

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物価とは何か

『物価とは何か』

著者
渡辺 努 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784065267141
発売日
2022/01/13
価格
2,145円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

30年続いたデフレがついに終わる? 新しい物価高に正しく備えるために

[レビュアー] 林操(コラムニスト)

 地味な装丁にタイトルは『物価とは何か』とだけ。いやいやいや、『ついに本気出してきたインフレが怖くなって東大大学院教授にすがりついてみたら中学以来の謎だった物価の仕組みがスルスル頭に入って一安心したんだが』くらい、敷居を下げて間口を拡げるべきですよ、これほど切実なテーマを、これほどナイスなタイミングで、これほどわかりやすく説いてくれる超良書なんだから。

 コロナ禍の果てに米国で燃えだしたモノ・ヒト不足の火にウクライナ戦争が油を注いでの世界規模での物価高ときたら、ニッポン名物の慢性デフレにさえ、とうとう引導を渡しそうな勢い。一国経済寒冷化の中で低価格ライフに浸ってきた(茹で蛙ならぬ)冷やし蛙の個人や企業にとっちゃ、幅広キリなしの値上げ値上がりが続くなら30年ぶりの潮目の大変化だもの、半世紀近く前のオイルショック級の混乱を心配してるアナタのこと、ワタシゃ嗤いません。

 ――どうせ怖れるなら正しく怖れよ、同じ備えるなら正しく備えよ。そのために読むべき書を物色していて出会ったのがこの本で、語りの巧みさは“聞き書き新書”以上なのに、中身の深さは入門書以上。角栄時代の狂乱物価の要因は原油高騰じゃなかったとか、バブル絶頂期でも消費者物価上昇率はせいぜい2%台だったとか、この国でデフレが止まらなかった本当の理由とか、俗説とは違う物価の実像はもちろん、知っておくと先読みに役立つ物価がらみの経済理論のあれこれまでが「こんなにわかっていいかしら」状態なのよ。このさき増えるインフレ詐欺(アレ買えコレに投資しろ)の予防薬としても効きそうだし。

 個人的な収穫として大きいのは、不景気なのに減税しない連中の本音や最近の官民賃上げ祭りの空虚さが学術的に再確認できたこと、そして、アナタやワタシが物価だ金利だを気にせずにすむことが金融政策の真の目標だと初めて教えられたことです。

新潮社 週刊新潮
2022年3月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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