『ジョージア旅暮らし20景』
書籍情報:openBD
定住旅行家が伝える「ふつうのひとの、ふつうの生活」
[レビュアー] 都築響一(編集者)
ERIKOさんの肩書は「モデル・定住旅行家」。ホテルを予約して泊まることも、限られた時間で精力的に取材先を走り回ることもせず、泊めてもらえる一般家庭を探したり言葉も学びながら、ひとつの国に数カ月間滞在してリアルな暮らしを体験する。そんな「定住旅行」でこれまで訪れたのがラテンアメリカ全般(25カ国)、ネパール、フィンランド、ロシア、サハ共和国、イタリア、イラン、スペイン、パラオ、カルムイク共和国、タタールスタン共和国……そして2017年に訪れたジョージア(グルジア)の記録が本書になる。
ジョージアは料理やワインが好きなひとにはいま注目の国だし、相撲の栃ノ心関の故郷だし、個人的にはサカルトヴェロの世にも美しい合唱を生み出した土地でもある。
でもERIKOさんの旅行記には世界遺産のような観光名所の詳しい紹介も、危険に満ちたアンダーワールド潜入記も、波乱に満ちたジョージアの近現代史も、ようするにふつうの旅行記にあるような話はでてこない。「ふつうのひとが行けない場所、見られないもの、会えないひと」を教えるのがたいていのトラベルジャーナリストだが、ERIKOさんがみずから体験し、伝えてくれるのは「ふつうのひとの、ふつうの生活」。場所ではなく、人間を見るために彼女は世界を旅し続けているのだ。
「2021年グリーンランド・イルリサットの定住旅行先にて」とあとがきに書かれているが、本人に聞いてみたら17年のジョージア以降、18年にキューバ、イラン、スペイン、五島列島・中(なか)通(どお)島(りじま)、19年にパラオ、カルムイク共和国、タタールスタン共和国、そのあとコロナ自粛を挟んで21年にグリーンランド、デンマークに行ってきました!と教えてくれた。やっぱりコロナでずっと外国に行けないままの僕には、これほどのフットワークの持ち主がいると知るだけで、なんだかすごくうれしくなってしまう。