【聞きたい。】南原詠さん 『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来(おおとりみらい)』

インタビュー

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【聞きたい。】南原詠さん 『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来(おおとりみらい)』

[文] 油原聡子

■知的財産ミステリーに挑戦


南原詠さん

「このミステリーがすごい!」大賞を受賞したデビュー作だ。主人公に特許の専門家である弁理士を据え、キャラクターの姿を借りて動画を配信する「Vチューバー」という流行の題材を絡ませた新たなミステリーとして評価された。

自身も企業で働く弁理士だ。「弁理士が主人公の話はほとんどないので、新しさが出せる。知的財産の世界はまだそこまで物語になっていないし、デビューしてからも書き続けられると思いました」と話す。

本書では、大人気Vチューバーの天ノ川トリィが映像技術に関する特許権侵害を警告され、活動休止を迫られる。弁理士の大鳳未来は、トリィを救うために難題に挑む。

企業間の水面下の交渉がおもしろい。未来は凄腕で強気な女性。解決のためには手段を選ばない。企業の思惑が交錯するなか、興信所の調査員やエンジニアらの協力を得て、不利な状況を覆していく。「有名な特許訴訟はありますが、表に出てくるのはごく一部。実際は水面下で決まることが多く、結構グレーな話も聞く」と明かす。

肝となるのがVチューバーの映像技術だ。「特許だけではなく、何かを掛け合わせないと分かりやすく書けない。10年後も残っている題材を考え、Vチューバーにしました。日本が世界に売り出せるコンテンツ産業になる予感があります」

エンジニアとして就職したが、向いていないと感じていた。エンジニアから知財業界に入るのは「理系の裏の王道」と呼ばれていると知り、弁理士を目指した。暗記と勉強の日々を送ったが、真っ白な答案用紙に向かったとき、ふと「好き勝手に物語を書きたい」との思いが湧きあがった。平成25年に合格した後、小説講座に通い始めた。

「なんでみんな物語を書かないんだろうと思うくらいネタがたくさんある。ミステリーとの相性も良い。知的財産ミステリーという新たな市場を作りたい」(宝島社・1540円)

油原聡子

   ◇

【プロフィル】南原詠(なんばら・えい)

作家、弁理士。昭和55年、東京都生まれ。東京工業大大学院修士課程修了。元エンジニアで現在は企業内弁理士として働く。

産経新聞
2022年3月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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