オオカミに魅了された夫婦が訴える適正な距離、共存の道

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オオカミの知恵と愛

『オオカミの知恵と愛』

著者
ジム&ジェイミー・ダッチャー [著]/ナショナル ジオグラフィック [編集]/藤井 留美 [訳]
出版社
日経ナショナルジオグラフィック社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784863135079
発売日
2022/02/18
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

オオカミに魅了された夫婦が訴える適正な距離、共存の道

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 オオカミは人間の憧れや愛着を誘いやすい生き物だと思う。力強く美しい身体、群れの結束や家族愛の強さ。人間が感情移入しやすい要素に満ちている。しかし一方でオオカミは家畜を襲う害獣になることがあるため、敵視され、駆除の対象にもなってきた。

 オオカミと人間は、互いに適正な距離を見出して共存すべきなのだろう。人間がオオカミとのなわばり争いに勝ったらオオカミは滅びるが、それは目先の勝利にすぎない。そうやって多種多様な生き物を滅ぼしていった先に、人類の幸福はたぶんないのだ。

 共存の道を探るためにはオオカミを知らなければならない。この本の著者ダッチャー夫妻は、米国アイダホ州で6年間、ソートゥース・パックと名づけられた群れと行動をともにした。かつて生息していた地域にオオカミを戻す計画の一環として、人間の意図によって生まれた群れである。しかし、だからこそ接近して撮影することが可能であり、一頭一頭の個性を発声やしぐさに至るまで詳細に観察・撮影できた。

 その結果明らかになったオオカミたちの魅力には驚くばかりだ。オオカミの群れは強い階級社会であるが、群れのオメガと呼ばれる最下位個体はただ虐げられているわけではない。遊びとしての軽い噛み合いをオメガが呼びかけて始めるし、こうした遊びの中で上位の者が下位の者にわざと負けてやる場合もある。オオカミは他者の立場というものを理解しているのだ。こうしたことは、群れに密着しなければわからないことなのだろう。

 オオカミは未体験の食べ物に手を出さないため、家畜のウシを見ても、いつものシカを狩るものらしい。人間の家畜を襲うのは、群れの伝統を継承できなかった、追い詰められたオオカミだ。かれらの共同体と文化を守ることが、共存への最善の道。この本はそう訴えている。

新潮社 週刊新潮
2022年4月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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