『人権と国家』
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新冷戦で試されるニッポンの「人権力」
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
『人権と国家』なる岩波新書の新刊を最初に、それも好意的に書評で紹介した全国紙は産経新聞─と聞いて驚くタイプのアナタなら、さらに驚かせてあげよう。この本のあとがきでまず謝辞を贈られているのは防衛大学校の校長です。
いや、国家優先・人権劣後を唱える書ではない。冷戦が終わって戦後が終わり、さらには冷戦後まで終わった今日このごろ、価値観は捻じれまくり、中国の人権蹂躙を糾弾してるのはヒダリよりミギであるくらい。
だからといってこの本は人権優先・国家劣後を叫ぶ書でもない。それなら一体、何が書かれてるのよと問わるれば、“人権を国家が活かして自国を強く、世界を良くしていくために必要な知識と知恵”というのがワタシの答えです。
著者の筒井清輝は政治社会学や国際人権の研究者で、この日本語でのデビュー作の肝のひとつは、人権は国家にとって足枷ではなく、武器にさえなるという視点。奴隷貿易の禁止に英国が動いた19世紀から、東西に割れて互いの人権侵害を批判しあった冷戦期、そして人権無視の権威主義体制が再び脅威と化した現在ただいまに至るまで、人権は理想主義者の目的のみならず現実主義者の手段でもあった。
もちろん、他国を人権で攻めるなら、攻め返されないよう自国の人権保護の徹底も不可欠。ミギやヒダリの旦那様、そろそろお眼醒めを。新冷戦の御代では人権の尊重はますます、そして確実に、建前から本音へと切り替わっていますぜ。