『シャーロック・ホームズの建築』
- 著者
- 北原 尚彦 [著]/村山 隆司 [イラスト]
- 出版社
- エクスナレッジ
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784767829777
- 発売日
- 2022/02/19
- 価格
- 2,200円(税込)
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【聞きたい。】北原尚彦さん 『シャーロック・ホームズの建築』
[レビュアー] 寺田理恵(産経新聞社)
■架空の領主館 間取り示す
「シャーロック・ホームズ」シリーズの舞台となった架空の領主館や邸宅の間取りを、図面で明らかにした。たばこでくつろぐビリヤード室。使用人を呼ぶ鈴の紐(ひも)。かつて中世の吟遊楽士が演奏した席。ビクトリア朝英国の上流階級の生活が鮮やかに浮かび上がる。
「(著者のコナン・ドイルは)ディテールまで書き込んでいる。頭の中に図面があり、建物が立体的に存在して、その中で人物を動かしていた」とみる。
シリーズのうち「建物が重要になる事件」から建物の描写や建築用語を拾い、建築家の村山隆司氏とともに17点を設計した。
中でも好評を博しているのが、密室殺人物語「まだらの紐」の舞台だ。
約200年前に建てられたという設定の領主館に、その頃はやった左右対称の外観を採用。間取り図では、事件が起きた寝室の配置やトリックに使われた通風孔の位置も示した。
短編「マスグレイヴ家の儀式書」は、領主館の構造をめぐりシャーロッキアンと呼ばれる熱心なファンの間で議論がある。東向きの玄関に西日は差さないはずだという「西日問題」だ。
「無理やりといえば無理やりですが、新しい解決策を提示できた。シャーロッキアンとしても『してやったり』というところがある」
自身も「疑問があっても、記述に矛盾が生じないように合理的説明を考える」というシャーロッキアン。間取りについても記述から外れたくない。一方、村山氏は現実に存在し得る建築物に近づけたい。協議の上、落としどころを見つけた。
「ホームズを読んだことがない建築好きの方に、イメージが湧いたからホームズを読んでみようと思ってもらえれば、シャーロッキアンとしては幸せ」
英国では、古城を舞台に怪奇を扱うゴシック小説が18世紀に誕生。その系譜に連なる探偵小説は建物の構造が重要となる。間取りが分かれば、ホームズはより面白い。(エクスナレッジ・2200円)
寺田理恵
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きたはら・なおひこ 作家、翻訳家、ホームズ研究家。昭和37年、東京都生まれ。青山学院大卒。『初歩からのシャーロック・ホームズ』など著書多数。