LGBT当事者の元議員はなぜ「不都合な真実」を暴露したのか?

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LGBTの不都合な真実 活動家の言葉を100%妄信するマスコミ報道は公共的か

『LGBTの不都合な真実 活動家の言葉を100%妄信するマスコミ報道は公共的か』

著者
松浦大悟 [著]
出版社
秀和システム
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784798065564
発売日
2021/09/17
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

LGBT当事者の元議員はなぜ「不都合な真実」を暴露したのか?

[レビュアー] 浅羽通明(評論家)

 LGBT。レズビアン、ゲイ、バイ・セクシュアル、トランス・ジェンダー。最近はQ(クィア)等が末尾に加わる。要するに性的少数者。彼らの人権主張、差別の解消が近年、しばしばニュースになる。

 例えば本書が第3章で取り上げた事件。2015年、精神に不調をきたした一橋の法科大学院生が校舎から転落死した。その背景には、彼からゲイであると告げられた友人がそれを周囲に言いふらした、いわゆる「アウティング」があったとされた。それは酷い、かわいそうだと感じた方も少なくないだろう。

 また、先進国の多くが認める同性婚を日本でも認めよというLやGつまり同性愛者の訴えに賛同する方もおられよう。

 そうした「進歩的」な良識に、「待った!」をかけてくるのが本書だ。

 結婚式を挙げて祝福され、メディアにも取り上げられた同性婚推進派カップルの多くがわずかの年月で離別していた。性的少数者は必ずしも同性婚を切望しているわけではない。転落死したゲイの大学院生は、ゲイでない友人に恋愛感情を告白して断られた後なおしつこく言い寄り続けたため、その友人も周囲にアウティングせざるを得なくなったというのが真相。

 同性婚を認めた台湾の先進性がよく讃えられるが、じつは男女の結婚と全く同じ扱いを法が認めたとはいえない。

 一般メディアが絶対報道しないこれら「知られざる実態」を本書は次から次へと明かしてゆく。扱われる問題は、コロナ禍や皇位継承にまでおよぶ。

 著者松浦大悟氏は、法務委員会でLGBTの人権問題に取り組み、菅直人内閣時代には予算委員会理事も務めた旧民主党の元参院議員。講演会を通じて、ゲイであることをカミングアウトしてきた。

 そんな人物がなぜ、LGBT当事者にとってタイトル通り「不都合な真実」となるだろう事情を暴露したのか?

 実際、著者の発言は、同性婚を認めよ等を訴えるリベラル系活動家から、「利敵行為」だとして激しいバッシングを被っているという。それならば、なぜ?

 それは松浦氏が、社会運動を押しつけとしないためには、批判や対決に終始することなく、粘り強い理解と対話の蓄積が必要だと信じる人だからである。

 それゆえか氏の文章は、驚くほど読みやすくおもしろくまた説得的だ。その資質は啓蒙的なライターにこそ向いている。

 少なくとも、本邦の政治家などよりは……。

新潮社 週刊新潮
2022年4月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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