『資本主義経済の未来』
書籍情報:openBD
あえて負の側面にも踏み込んだ現代経済学の到達点
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
ウクライナ戦争と新型コロナ禍で、日本経済の視界は不明瞭だ。この状況の中で、常に経済政策の議論をリードしてきた著者の代表作を読めるのは幸運である。表題の「資本主義」については、多くの人は漠然と日本など先進国経済を表現する言葉だと思っているだろう。
だが本書では、資本主義はわれわれの生活の核心にあることを指摘する。資本主義というシステムは、自由と民主主義を守るものだ。自由と民主主義が守られなければ、たちまちその国は権威主義やファシズム、あるいは最近流行の脱成長型のコミュニズムに飲み込まれるだろう。
資本主義経済は私有権を保障し、競争的な市場での交換によって財やサービスの分配を効率的に行うシステムだ。また教育や医療など非市場的な制度も現代の資本主義には組み込まれている。資本主義がうまく機能することで、われわれの経済的自由が高まり、それは政治的な自由、民主主義的な政治体制に生命を与えるだろう。
もちろん資本主義にも負の側面はある。本書は、この負の側面にあえて比重を置いている。前半は経済格差の問題、後半は金融的な不安定性が主要なテーマだ。日本の経済格差の真因は、デフレを伴う長期不況である。つまり経済政策でデフレを脱却すれば、経済格差自体は十分改善できる問題だ。それができないのはなぜか。政治家や官僚たちの経済政策に対する無知であろう。またバブル崩壊型の金融危機も資本主義が必然的に招くものではない。やはり経済政策の失敗に基づいている。経済格差は適切な所得再分配政策で、バブル崩壊型の危機は金融政策を適切に行うことで対応可能だ。
日本では資本主義崩壊必然論や悪玉論が人気である。だがこれらの安直な思考が行きつく先は、旧ソ連の復活を目指すロシアの蛮行をみれば明らかだ。この重厚な書をぜひ手元に置き熟読玩味してほしい。