『インドシナ』
- 著者
- クリスチャン・ド モンテラ [著]/長島良三 [訳]
- 出版社
- 二見書房
- ISBN
- 9784576921396
- 発売日
- 1992/09/01
- 価格
- 1,500円(税込)
小説の言葉すべてを忠実に演出 悲恋モノに収まらない深い余韻
[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)
「なにも足さない。なにも引かない」。ウィスキーのCMにありましたね。映画『インドシナ』もまさにそうなんです。小説に書かれている全ての言葉を順序も変えず、なにも足さず、なにも引かずにそのまま忠実に映像化。その結果、原作は訳者あとがきを入れても285ページなのに、映画は2時間39分の長編に。
1930年代の仏領インドシナ。広大なゴム園の独身の美しい女主人エリアーヌは、安南(現在のベトナム)の皇太子の娘カミーユを養子に迎える。ゴム園の労働者に対しても、自分と同じ支配層であるフランス人に対しても、毅然とした態度をとるエリアーヌは、年下のフランス海軍大尉ジャン・バチストと愛しあうようになる。だが、養女カミーユもジャン・バチストに恋をしてしまう。
民族独立の気運が高まる中、3人の運命は歴史のうねりに翻弄されていくのだった。
エリアーヌを演じたカトリーヌ・ドヌーヴは当時48歳。美しさに落ち着きと品格が加わり、威厳すら感じさせる演技でセザール賞主演女優賞を受賞。ジャン・バチスト役のヴァンサン・ペレーズは、愛・欲望・絶望などをその大きな瞳で表現。でも、彼以上に存在感があったのが、警察署長(映画では警察長官)ギイ・アスラン役のジャン・ヤンヌ。植民地の頼りになる権力者だが、恐れられ嫌悪されてもいる。決して報われないことを承知でエリアーヌを愛し、陰になり日向になり彼女を支える。彼女の罵倒や冷淡さに対して見せるアスランの切なそうな表情がいい。左遷されることになったアスランがエリアーヌと踊る場面は、男女の複雑な感情が凝縮されていて短いながらとても印象的。
小説も映画も大悲恋ものというジャンルには収まりきれない。それはエリアーヌの生き様の核にインドシナへの強い愛情を据えたから。’54 年7月、ジュネーブ会議でフランスのインドシナ半島からの撤退が決まった。その時、彼女の胸に去来するのは、失った日々、失った愛、失ったインドシナへの想い。映画のラストカットは、湖を見つめる彼女の後姿のシルエット。深い余韻が残る。