国防最前線の護衛艦・女性艦長にもう無関心ではいられない

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護衛艦あおぎり艦長早乙女碧

『護衛艦あおぎり艦長早乙女碧』

著者
時武, 里帆, 1971-
出版社
新潮社
ISBN
9784101038414
価格
649円(税込)

書籍情報:openBD

試練

『試練』

著者
時武, 里帆, 1971-
出版社
新潮社
ISBN
9784101038421
価格
781円(税込)

書籍情報:openBD

国防最前線の護衛艦・女性艦長にもう無関心ではいられない

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 三月刊『護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧』(新潮文庫)の続篇だが、大矢博子の巻末解説にあるように、シリーズ第二作というより前後篇のような関係にあるので、二冊まとめての紹介とさせていただきたい。

 前作では六年前、練習艦むらゆきの艦長に就いたもののその後陸上勤務が続いていた海上自衛隊・早乙女碧二佐が念願の護衛艦あおぎり艦長に就任、その着任初日の出来事が描かれた。あおぎりは機関砲やミサイル、魚雷等の兵装を備えている他、ヘリコプターも搭載している「実戦を視野に入れた作戦要務に就く実働護衛艦」。艦長の責任も重大だが、初出港を前にWAVE(女性海上自衛官)一名の失踪が判明、艦長自ら捜索に乗り出す事態となる。

 本書はその一週間後、前作で退職を希望していた坂上砲術士が依然として辞めたがっているところから始まる。何とも不吉な出だしだが、部下たちとの関係が今一つしっくりいかないことに碧が悩む中、あおぎりは対潜魚雷アスロックの訓練発射のため太平洋の訓練海域へと向かう。だが良好だった天気は、一転荒れ始めていた……。

 著者は元海上自衛官ということで現場の知識も経験も豊富。前作では海上自衛隊や護衛艦の知識は得られたものの、肝心の船が港から出られずやきもきさせられたが、本書では本来の海洋活劇が存分に楽しめる演出が凝らされている。一〇〇名の民間人を乗せた体験航海時に遭難信号が飛び込むなど同時多発的トラブルに見舞われる後半は一気読み必至だ。

 むろん男社会である護衛艦のトップに女性が就くことから生じる軋轢もハンパなく、生真面目な碧が広島弁の似合う暮林副長やダンディな堀田司令等、クセモノ相手にどう立ち回るかにも注目。ロシアのウクライナ侵攻により、国防に無関心ではいられなくなった今、その最前線を護る人々の現状を知るうえでも読み逃せないシリーズの登場である。

新潮社 週刊新潮
2022年4月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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