『裸の大地 第一部 狩りと漂泊』
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情報を捨て、合理的思考も捨てた「本物の自由」に読み手がヒヤヒヤ
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
旅をするとき、効率的な計画を立てることや、事前に情報を集めておくことを、私たちは当然の行動として疑いもしない。でも、失敗を避けようとして過度にマニュアル化すると、自由が失われ、楽しさや喜びも削がれてしまうかもしれない。
「漂泊」というのはその好対照。目的を定めず、天候や自然環境に身を任せて流浪する。数々の探検を重ねてきた著者が、この言葉を意識し始めたのは五、六年前だそうだ。
漂泊的な行為を試すために、地図を持たずに日高山脈の原生林に入り込む。計画性や合理的思考から無理やり身を遠ざけることで、毎日のように途方に暮れた。でも、そこでは本物の自由を感じられた。
〈カオスに直面し、判断し、行動をとり、自分自身が変化してゆくことで人間は生きている実感をえることができる〉
とはいえ、狭い日本での漂泊は中途半端にならざるを得ない。そこで北極圏に実践の場を移す。氷雪に覆われた無辺の大地。ただ歩くだけでも命懸けだが、ここで漂泊的要素として取り入れたのが「狩り」。必要な食糧を道中の狩猟で得る。獲物があれば旅は続く。だめならそこで終了、というか餓死の危機。
ハードすぎて読んでいる方がヒヤヒヤ。執筆されたからには生還しているはず、とわかっていても手に汗握る。読み手が生涯きっと足を運ぶことなどない別世界の出来事を、臨場感抜群に追体験させてくれる。
哲学的ともいえるほど考察を深めて、行為の意味や物事の背景を丁寧にたどる思索もますます冴える。旅を通じて、人生の意味を、世界のかたちを捉え直す。
〈目の前の偶然を肯定し、そのみちびきにしたがうことによってのみ、人は自分の人生をつかみとることができる〉
漂泊せよ。さまざまな事情でなかなか旅に出られなくても、このエールはガツンと胸に響く。