名人たちのエピソードがたっぷり芸歴55年の凄みを堪能する

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

いまだから語りたい昭和の落語家 楽屋話

『いまだから語りたい昭和の落語家 楽屋話』

出版社
河出書房新社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784309291802
発売日
2021/12/27

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

名人たちのエピソードがたっぷり芸歴55年の凄みを堪能する

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 著者は楽屋の3年先輩です。色々導いてもらいました。ともに落語協会に所属していましたが、やがて著者は円楽一門会、私は立川流へと道が分かれます。

 著者には、古巣からの揶揄が何かと聞こえてきます。「協会を出てやって行けるのか」等です。立川流も言われますので、大いに共感を覚えました。やって行けるのかどころではありません。円楽一門会も立川流も世に堂々と蔓延っています。何しろ著者は人気番組『笑点』の大喜利メンバーを長く務めているのですから。

『笑点』は我が師談志が立ち上げた番組ですが、その裏表も本書の読みどころの一つです。そうだったのか、知らなかったという話が満載です。

 そして落語ファンにとってのメインはタイトルとなった『昭和の落語家 楽屋話』です。著者の最初の師匠八代目林家正蔵を始め八代目桂文楽、九代目桂文治、六代目三遊亭円生、五代目柳家小さんと続き、当時の若手、柳朝、談志、円楽、志ん朝、円蔵といった人たちの高座や楽屋の姿が活写されます。

 私も知る人たちだけに懐かしさが込み上げましたが、キャリアが3年違うと見方やエピソードも違ってくるのだと驚きました。サービスたっぷりに語られますので、どうぞご堪能ください。

 著者は自宅に『池之端しのぶ亭』という名の寄席を作りました。キャパは35ですが、客席がやや小さくなったのは楽屋を備えたからです。個室ではない、前座、二つ目、真打に色物までが会する一つの部屋、その楽屋の重要性を著者は説きます。

 つまりは前座修業がいかに大切かということです。師匠連の世話をし、雑談を聞きつつ高座にも耳を傾ける。これが最高の教育だと言うのです。池之端しのぶ亭の資金調達等は、2年前に亡くなったとみ子夫人が行ったとあります。そして芸歴55年の著者は、もうひと暴れすると宣言しています。まるで激励されたようです。

新潮社 週刊新潮
2022年4月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク