いまどきのロボットの魅力に目覚めた(い)人にお薦めのショーケース

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  • 創られた心
  • ロボットには尻尾がない 〈ギャロウェイ・ギャラガー〉シリーズ短篇集
  • アイの物語

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いまどきのロボットの魅力に目覚めた(い)人にお薦めのショーケース

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 私事で恐縮ですが、SFのアンソロジーをつくりはじめたとき、密かに目標にしていたのが、オーストラリアのジョナサン・ストラーンだった。僕より3歳下(1964年生まれ)だが、今世紀に入ってSFアンソロジストとしてめきめき頭角を現し、編著は軽く百冊を超える。ハーラン・エリスンやジュディス・メリルと違って、編者の個性を前面に出すタイプではないが、作品のクォリティとバラエティを保つ手腕は抜群だ。『創られた心 AIロボットSF傑作選』は、そのストラーンが編纂した書き下ろしアンソロジー。人工の知性や身体をテーマにした新作16編を収める。

 過去の作品から自由に傑作を選べる再録アンソロジーと違って、書き下ろしの新作で水準を保つのはたいへんだが、本書はそのハードルを楽々とクリアする。

 ケン・リュウやピーター・ワッツなど第一線の人気作家が気合いの入った最先端の本格SFを寄稿する一方、巨大宇宙船で起きた重大事故をなんとかごまかそうとしてロボットの乗組員たちが涙ぐましい演技をくりひろげるアレステア・レナルズ「人形芝居」みたいな愉快な話も入っている。かと思えば、タイの空港を管理するAIや、甲殻類型の警察ロボットによる児童誤射事件をネタに、社会的なテーマに果敢に斬り込む新作もあって、読者を飽きさせない。いまどきのロボットSFのショーケースというだけでなく、この一冊でSF界全体の現状も俯瞰できる。

 一方、ヘンリー・カットナーのユーモアSF連作集『ロボットには尻尾がない』(竹書房文庫)には、昔懐かしいタイプのロボットが主人公の相棒役で登場する。主役の科学者ギャラガーは酔っ払うと天才発明家になってスーパーマシンを開発するが、素面に戻ると自分が何をつくったのかまるで思い出せず、毎度ドタバタ騒動の幕が上がる。

 最後は日本を代表するロボットSF連作集、山本弘『アイの物語』(角川文庫)。カズオ・イシグロ『クララとお日さま』でロボットの魅力に目覚めた人にもぜひお薦めしたい。

新潮社 週刊新潮
2022年4月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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