『人はどう死ぬのか』
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上手に死ぬためのコツ 生を考える一冊
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
ある年齢に達すれば、死について考えなくてはならない機会は増えてくる。とはいえ、出来れば目を背けておきたいという後ろ向きの気持ちも消すことが出来ない。そんな迷える子羊たちに最適の本が出た。久坂部羊『人はどう死ぬのか』は、医師で小説家である著者にしか書けない「死に関する新しい教科書」だ。
著者は高齢者医療の現場や在宅医療のクリニックを経験し、がんの終末期医療にも取り組んできた。死の実際を踏まえ、医療の限界や過剰な医療の弊害を率直に語っていく。伝えているのは「病院での死に比べて、在宅での死がいかに穏やかかつ自然か」である。
思えば昭和時代の前期まで、多くの人は自宅で死を迎えていた。医療が進歩し、死が病院の中に隠されたことで、死は得体の知れない恐怖になった。しかも、その恐怖は幻影であり、死を押しとどめようとする医療こそが、逆に悲惨な状況を作り出しているそうだ。
最期を迎えるに際して、著者のアドバイスは「高度な医療は受けないほうがいい」。つまり、病院に行かないことだ。在宅で上手な最期を手に入れるコツは「死を受け入れること」であり、「死は目が覚めない眠りと同じだ」と考えるようになったと言う。
さらに、著者が同じ医師だった父から受け継いだという、上手に死ぬための秘訣がある。それが「足るを知る」だ。死について学ぶことは、生を考えることでもある。家族で回読することを勧めたい一冊だ。