『キリンの子 鳥居歌集』
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訴えを込めてセーラー服を着続ける歌人
[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「制服」です
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2017年に『キリンの子』で現代歌人協会賞を受けた鳥居は、「セーラー服の歌人」と呼ばれている。授賞式や取材など、公の場所に出る時は、セーラー服を着るからだ。
生年は公表していないが、セーラー服を着る年齢はとっくに過ぎている。ではなぜ制服にこだわるのか。
〈あおぞらが、妙に、乾いて、紫陽花が、路に、あざやか なんで死んだの〉
鳥居は小学5年生で母を喪っている。睡眠薬による自死だった。学校から帰った時はまだ息があったが、騒ぎを起こすと住めなくなるから目立つことはするなと言い聞かされていた彼女は、昏睡状態の母親と何日間かを過ごす。そこは頼れる人のいない母子家庭がやっと借りられたアパートだった。
孤児となった鳥居は、児童養護施設やDVシェルター、里親の家などを転々とする。どの場所でも適切な保護を受けられず、ほとんど登校できないまま中学校を卒業した。
ホームレス生活をへて歌を始めた時に障害になったのが、基本的な学力や常識が欠けていることだった。彼女は自分と同じように様々な事情で学校へ行けずに形だけ義務教育を終え、学び直したくてもその場がない人たちがいることを知る。
〈慰めに「勉強など」と人は言う その勉強がしたかったのです〉
すべての人に教育が保障される世の中であるべきだという訴えを込めて、彼女はセーラー服を着続けているのだという。