『EXTRA LIFE』
- 著者
- スティーブン・ジョンソン [著]/大田直子 [訳]
- 出版社
- 朝日新聞出版
- ジャンル
- 自然科学/自然科学総記
- ISBN
- 9784023319936
- 発売日
- 2022/02/18
- 価格
- 2,970円(税込)
書籍情報:openBD
『EXTRA LIFE Extra Life なぜ100年間で寿命が54年も延びたのか』スティーブン・ジョンソン著(朝日新聞出版)
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
長寿化実現 3つの革新
今や先進国では人生100年が新しい現実となりつつあり、その他の地域でも寿命は大幅に延びている。現代に生きるほとんどの人にとって人類の寿命がほんの1世紀前までは今では考えられないほど短かったということは頭の片隅にもないだろう。だが17世紀の半ばには「平均的なイギリス人は三〇年ほどしか生きなかった」のだ。それに比べ現代では2万日、すなわち54年も長く生きるようになっている。本書はこの数世紀、特に直近の1世紀に実現した奇跡ともいうべき長寿化についての物語である。
長寿化はなぜ可能となったのか。著者は最も貢献度が高いイノベーションとして、飢饉(ききん)の抑制を実現した化学肥料、公衆衛生の要ともいうべきトイレと上下水道システム、そしてワクチンの3つをあげる。これらの恩恵を最も大きく受けたのは乳幼児であり、5歳以下の死亡率の劇的な低下が世界の平均寿命を2倍にした主因である。本書では天然痘ワクチンの開発と普及の物語や、文豪ディケンズのワクチン反対運動との闘いなど、画期的なアイデアを考えた先駆者たちと、その普及に地道に取り組んだ人々のエピソードでそれぞれのイノベーションの物語が紡がれ、読み物としても面白い。
これらのイノベーションによる長寿化で世界の人口は20世紀に4倍になった。これからもこの勢いで人口は急増するのだろうか。ゲノム研究等により人類が老化現象を克服し、出生率の低下をものともせずにさらに人口が増加する可能性もあるが、致死的なウイルスのパンデミックや手に負えないテクノロジーが大勢の命を奪うかもしれない。そして、最大の脅威は逆説的であるが、長寿化による「100億の人びとが環境に与える影響」であり、「急激に延びた寿命が、気候危機をきっかけに急激に縮小」するリスクを著者は指摘する。疫病や飢餓など、祖先たちを恐怖に陥れた脅威を克服した苦闘の歴史を忘れず新しい脅威に立ち向かう真剣な努力が必要であり、最大のリスクは問題の先送りや矮小(わいしょう)化であることを本書は教えてくれる。大田直子訳。