人間研究 西城秀樹 塩澤幸登(ゆきと)著

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人間研究 西城秀樹

『人間研究 西城秀樹』

出版社
河出書房新社
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784309922386
発売日
2022/02/22

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

人間研究 西城秀樹 塩澤幸登(ゆきと)著

[レビュアー] 藤井克郎

◆盛り上がる「ヒデ活」の源泉は

 「ヒデ活」という言葉があるのだそうだ。二〇一八年に六十三歳でこの世を去った歌手、西城秀樹の功績を次世代に伝えようという活動のことで、ファンの間ではますます活発化しているという。その伝でいけば、この本もその一環、いや「ヒデ活」の最たるものと言えるかもしれない。

 何しろ五七六ページにわたってびっしりとつづられているのは、著者一人の文章ではない。『週刊平凡』などで芸能記者をしていたのは一九八二年までで、八三年にギリシャでのマラソン大会に参加した秀樹に同行取材して以降、付き合いは全くなかった。ところが訃報から日を置いても、秀樹を思い出している自分に気づく。死去から二年後の命日のことをブログに書くと、普段は数百件のアクセスが一万件を上回った。「みんな、秀樹を忘れられないでいる」と思った。

 その理由を探る旅の過程がこの本で、ファンをはじめ、新聞記者や評論家ら、たくさんの人が秀樹について論じた言葉が目いっぱい詰まっている。彼らは口々に指摘する。「日本の音楽界に数々の新しい試みを取り入れた先駆者だった」「歌唱力は抜群で、シャウトしても音程は正確だった」「どんなに疲れていても変わらず全力で歌い、絶対にあきらめなかった」…。

 そんな秀樹の実像とともに浮かび上がってくるのが、死後も秀樹のことを支え続けるファンの熱い心根だ。しかもデビュー当初から一途(いちず)に応援している古参のファンだけでなく、亡くなって再びファンに戻った「ブーメラン組」や新たにファンになった「新規組」がどんどん増えていて、同じ「ヒデ友」として垣根なく交流しているという。

 例えばあるブーメラン組の女性はSNSで数多くの投稿を目にし、秀樹の「誰からも愛される人柄」を知る。と同時に「ヒデキを中傷したり、互いを誹謗(ひぼう)するものがほとんど見られない」ことに驚く。

 書名に「人間研究」とあるが、むしろ西城秀樹ファンの人間研究本と言えるだろう。そしてその研究には、まだまだ先があるように感じた。

(茉莉花(まつりか)社発行、河出書房新社発売・2970円)

1947年生まれ。小説家・編集者。著書『平凡パンチの時代』など。

◆もう1冊

塩澤幸登著『昭和芸能界史[昭和20年夏〜昭和31年]篇 戦後の芸能界は如何にして成立したか』(茉莉花社発行、河出書房新社発売)

中日新聞 東京新聞
2022年4月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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