『給料はあなたの価値なのか』
- 著者
- ジェイク・ローゼンフェルド [著]/川添節子 [訳]
- 出版社
- みすず書房
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784622090557
- 発売日
- 2022/02/14
- 価格
- 3,960円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
給料はあなたの価値なのか 賃金と経済にまつわる神話を解く ジェイク・ローゼンフェルド著
[レビュアー] 森永卓郎(経済アナリスト)
◆労働経済学の常識を覆す
もう二十年以上前のことだが、有識者が集まる研究会で、東大教授の年収と東京都清掃局の職員の年収が一緒だと話題になった。海外では、あり得ないことだが、その時は「東大教授が休講にすると学生が喜ぶが、ごみ収集がこなかったら皆が困るから、それでよいのではないか」ということで一件落着した。しかし、本書を読んで、なぜあの時、給料の決まり方について、しっかり考えておかなかったのかと深く反省した。
労働経済学では、個人の給料は、その人の能力に応じて、あるいはその人の会社への貢献に応じて決まるとされている。能力主義あるいは成果主義だ。著者は、そのこと自体は否定しないが、それだけではどうしても説明できないことがある。例えば、経営者の報酬だ。本書によると、アメリカでは、すべての上場企業経営者の報酬は、従業員給与の中央値の五倍を超えていて、なかには千二百倍以上という経営者もいたという。そうした事情は日本も同じだ。かつては、上場企業の社長の年収は数千万円だったが、いまや数億円が当たり前になっている。それでは、この数十年の間に経営者の能力が十倍以上に高まったのか、あるいは経営者が十倍以上の貢献をするようになったのかと言えば、そんなことはないだろう。
著者が考える給料の重要な決定要因は、権力、慣性、模倣、公平性だ。経営者の権力は、労働組合の組織率低下に伴って強くなっている。一度決まった給与には慣性が働くから、なかなか上昇しない。そして、それは横並びという模倣を通じて、業界に広がる。さらに公平性によって社内の賃金格差は小さくなるが、それは派遣などの非正社員には適用されない。これが格差拡大のメカニズムだ。
著者は、格差を減らすためには、最低賃金引き上げと高報酬の抑制とともに内部労働市場の拡充を唱える。つまり、日本的雇用慣行こそが正しい雇用慣行だということだ。本書は学術書であり、読みやすくはないが、労働経済学の常識をひっくり返す画期的な理論だ。
(川添節子訳、みすず書房・3960円)
米ワシントン大学セントルイス教授、社会学。ニューヨーク・タイムズなどに寄稿。
◆もう1冊
鶴見済(わたる)著『0円で生きる 小さくても豊かな経済の作り方』(新潮社)