未来を信じられたデザインが昭和世代を切なくさせる

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昭和インテリアスタイル・ワンダー

『昭和インテリアスタイル・ワンダー』

著者
グラフィック社編集部 [編集]
出版社
グラフィック社
ジャンル
芸術・生活/家事
ISBN
9784766135824
発売日
2022/04/08
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

未来を信じられたデザインが昭和世代を切なくさせる

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 昭和インテリアスタイルといっても、50年も60年も同じ家にそのまま住んでいるお年寄りのことではない。「昭和」に憧れる若者たちがわざわざ築数十年のマンションや一戸建てを探し、カリモクの家具やレコードプレーヤーやブラウン管のテレビを置いて、1960~70年代あたりの雰囲気に浸って暮らす、その記録。昭和に生まれ育った老人からすれば「なんでわざわざ!」という不可解なまでのコダワリが、実は当時を知らない世代に人気で、このスタイル・コレクションも第2弾である。かつてデザインの世界ではミッドセンチュリーという20世紀中期のスタイルが流行したが、こちらは「昭和中期」のデザインであり、ライフスタイルだ。

 リアルな昭和世代にとっては「そんないいことばかりじゃなかった」時代だけど、若者が浸るのはいわば幻想としての昭和感覚。骨董とまでは言えない、レトロやビンテージという言葉でくくられる、ほどよい時間の隔たりだ。カラフルで、ポップで、ようするに「カワイイ」という感覚は、明るい未来を信じられた時代感覚でもあり、そのピークに達したのが1970年の大阪万博で掲げられた「人類の進歩と調和」だった。あれから半世紀が経ったいま、人類がまったく進歩も調和もしていないことをだれもが痛感しているだろう。

 こういうトレンドを知らなかったお父さんたちはびっくりするかもしれないが、昭和中期に育った僕でさえ、あらためて見てもカワイイなあと思う家具や電気製品や洋服がいっぱい詰め込まれていて、それはいまのデザインがつまらないということでもある。2020年代のデザイン産業が意識しなくてはならないのはエコとかSDGsとかの倫理であって、夢をかたちにすればよかった昭和中期のデザインにかなうわけがないのを、オトナたちは思い知るべきだ。作り手はぜんぜん意識していないだろうが、これはそういう痛みの感覚を僕にもたらしてくれる。

新潮社 週刊新潮
2022年4月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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