『日本水商売協会』
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水商売への偏見に抗う明るい反骨精神の書
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
コロナ禍初期、「不要不急」が合言葉のようだった時期がある。しかしこの言葉があぶり出したのは、誰かにとって不急の用事でもほかの誰かにとっては人生の一大事であるという単純な事実だ。
店を閉めろ、イベントを中止しろという嫌がらせはどこでも見られたが、いわゆる「夜の街」はとくに強い風当たりに苦しんだ。店舗の構造が密室的だし、人と人との接触で感染拡大が危惧されるというのはわかる。だがそれを言うなら通勤電車の車内はさらに逃げ場がなく危険だ。通勤は「必要火急」だが酒場に行くのは「不要不急」であるという線引きは、「必要火急」の用事として酒場に行く人々の存在を軽んじている。
そのころ多数のメディアに取材され注目を集めたのが、二〇一八年に設立されたばかりのこの団体だった。代表理事の甲賀香織が書いた『日本水商売協会』は、明るい反骨精神の書だ。
差別的な感情を含んだ「水商売」という単語をあえて自分たちから名のるのは、この単語にまつわるマイナスのイメージをやがては払拭したいから。著者は27歳子持ちで銀座デビューした女性だが、不利な条件を複数もっている自分がもし成功したら、そのやり方を〈誰もが再現可能なノウハウとして提供できる〉と考えたそうだ。自分を「個別の特殊例」ではなく「ありふれた人間」ととらえる視線は、他者を受け入れることにつながるに違いない。