体の不調には「スパイス」 東大院卒の料理研究家・印度カリー子さんに聞く、日常に取り入れたいスパイスレシピ

インタビュー

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印度カリー子のスパイススープ

『印度カリー子のスパイススープ』

著者
印度カリー子 [著]
出版社
株式会社 世界文化社
ジャンル
芸術・生活/家事
ISBN
9784418213214
発売日
2021/12/01
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

体の不調には「スパイス」 東大院卒の料理研究家・印度カリー子さんに聞く、日常 に取り入れたいスパイスレシピ

[文] 世界文化社

スパイスの手軽な使い方が、わからない……!!

手作りスパイスカレーの魅力にハマってから早8年。クミン、ターメリック、レッドペッパーなど、スーパーや輸入食品店で見かけるたび、せっせとスパイスを集める日々でした。ところが、日々の料理に取り入れようとしても、どうにもこうにもうまくいきません。スパイスの風味は大好きなのに、「カレー」以外の料理に応用させようと思うと、おいしくないものに仕上がってしまうのです。

おまけに、同棲している彼はスパイスに苦手意識があるよう。ゼロから丁寧につくった「スパイスカレー」よりも、普通のレトルトのカレーの方がおいしいというタイプですから、もうどうしようもありません。
使い道がなく、キッチンに増えていくばかりのスパイスたち。どうにかして活かしてあげられる方法はないだろうか? と、お手上げ状態に陥っていたのですが、そんなときにタイミングよく、「スパイスのプロフェッショナル」にインタビューするチャンスをいただきました!


スパイス料理研究家として活躍中の印度カリー子さん

スパイス料理研究家に聞く、「初心者でも簡単なスパイスの使い方」

お話を伺うのは、スパイス料理研究家・印度カリー子さん。著書累計発行部数は28万部超(2021年12月時点)のほか、自身でもスパイス専門店を経営するなど、精力的に活動されています。今回は、カリー子さんの新刊『印度カリー子のスパイススープ めぐる、ととのう、きれいになる』(世界文化社)の発売を記念して、「初心者におすすめのスパイスの使い方」について、徹底的にお聞きしてみることにしました!
カリー子さんの特別レシピで、彼の胃袋は掴めるのか!? 実践してレビューしたいと思います!

初心者がやりがちなNG例
「味が薄い」=「スパイスが足りない」という誤解

──カリー子さん、今日はよろしくお願いいたします! お会いできるのをとても楽しみにしていました。カリー子さんの『印度カリー子のスパイススープ めぐる、ととのう、きれいになる』、手軽にできて、かつおいしそうなレシピがたくさんあって、いろいろ試してみたくなりました。スパイスの効能についてもわかりやすく書かれていて、本当に勉強になりました!

印度カリー子:ありがとうございます。実は、スパイス初心者の方には、カレーよりもスープから始めるのが一番おすすめなんですよ。カレーは、いろいろなスパイスを組み合わせてつくるから、どのスパイスがどんな役割を担っているのか、把握しづらいんですよね。その点スープなら、ベーシックなスープにスパイスをチョイ足しして香り付けもできるし、それぞれのスパイスと仲良くなるのにうってつけなんです。ポッとスパイスを一振りするだけで、こんなに変わるんだ! と実感できると思います。

──今回「スパイススープ」に特化した書籍を出版されたのは、そんな意図があったんですね。スパイス料理の失敗として、よくあるパターンはどんなものでしょう? 私もよく失敗してしまうのですが……。

印度カリー子:一番多いのは、「味が薄いから」という理由でスパイスを入れすぎてしまうこと。「味が薄い」=「スパイスが足りない」と誤解している人がとっても多いんです。

──ええっ! 私も何か物足りないな、というときスパイスを追加してしまっていたんですが、だめなんですか?

印度カリー子:スパイスはあくまで香り付け。味は変わらないんですよ。スパイススープにおいてもそれは同じで、味を左右するのは「塩」なんです。だから、味見したときに味が薄く感じたら塩を足せばいいし、味が濃く感じられたら、水を足せばOK。スパイスは少量でも十分、風味を感じることができるので、とにかく入れ過ぎ注意! ですね。

──たしかに、スパイスだけで味付けしたつもりになっていたことは多々あったかもしれません。

印度カリー子:味付けは塩で、というのを念頭に置いてつくると、うまくいくかもしれませんね。今回の本に載せたスパイススープのレシピも、基本的に出汁やコンソメなどはいっさい使わず、あくまでも「塩」だけで味付けすることにこだわりました。旨みは野菜や肉から溶け出してくるので、スパイスと素材のおいしさをしっかりと引き出すためにも、この組み合わせがベストだな、と思ったんです。使うものも少なく、スパイス×素材×塩のシンプルな構造なので、「これだけでこんなにおいしくなるんだ!」という感動を味わってもらえると思いますよ。

「おうち居酒屋」の万能選手・コリアンダー

──スパイスが苦手な人は、どんな組み合わせからはじめたら良いでしょうか? 

印度カリー子:実は、私自身も苦手な食べ物をスパイスで克服してきたんですよ。たとえば、牡蠣が苦手だったんですが、大学3年生のスーパーの牡蠣特売日のある冬、一念発起してカレーにしてみたらすごくおいしくて。ターメリックの香りによって牡蠣特有の臭みが消えて、苦手だったはずなのに、食べられるようになったんです。もう、あのときの感動は忘れられないですね(笑)。組み合わせによって素材の魅力をより引き立たせてくれるのがスパイスの魅力でもあるので、ぜひいろいろ試してみてもらうといいと思います。

──「こんな組み合わせが合うんだ!」など、特に意外だったものは何かありましたか?

印度カリー子:うーん。本当にたくさんありますが、意外性があって面白いのは豚しゃぶ×マヨネーズ×梅干し×コリアンダーかな。

──梅干しとコリアンダーですか! どちらも香りが強いイメージがあるので、意外です。

印度カリー子:梅干し、コリアンダーと相性が良いんですよ。梅干しの甘酸っぱさとコリアンダーの爽やかさを合わせるとすごくおいしいんです。豚しゃぶをマヨネーズと梅干しで和えて、さらにコリアンダーを振ってみると、梅の甘酸っぱさがさらに引き立つし、マヨネーズのこってりした風味が、コリアンダーの爽やさによって、少し大人っぽい味わいになるんです。

──お酒のおつまみにも合いそうですね。

印度カリー子:お酒のおつまみをつくるなら、コリアンダーは万能選手ですよ。私がスパイスにハマりはじめてから一番最初に好きになったのも、コリアンダーでした。試してもらうとわかると思うんですが、「山椒」に近い風味があるんです。私は、「コリアンダー」=「辛くない山椒」だと思っていて。
たとえば、サバの味噌煮やサンマの蒲焼など、魚の缶詰をお皿に盛り付けてコリアンダーをふるだけで、グッとおしゃれな味わいになるんです。煮物の甘みにほんのりと爽やかさが加わるから食べ進めやすい。
コリアンダーは、全然癖のないスパイスの代表格だと思いますよ!

──自宅で飲み会をするときなんかにも、使えそうですね。コリアンダーをお皿に添えておいて、トッピング感覚で味変を楽しんでみるとか。

印度カリー子:うんうん。カマンベールチーズとかにかけてもおいしいですよ。

──ええ! それも意外な組み合わせですね。

印度カリー子:カマンベールチーズを切ったときに、中身がトロッととろけて出てきますよね。その部分に、ちょっとだけコリアンダーをふりかけるんです。
もし彼氏と一緒にスパイスを楽しむなら、そういう場面でさりげなくスパイスを出しておく、というのもいいかもしれませんね。苦手意識がある人に対して、最初からスパイスをかけた状態で出すと、抵抗感があって食べづらいと思うので。

──なるほど、たしかに。

印度カリー子:だから、カマンベールチーズや魚の缶詰など、おつまみ系のメニューの脇に、コリアンダーをそっと置いておくんです。あえて勧めないんで、置いておくだけ。で、「それ何?」って聞かれたら、「あ、これかけるとおいしくなるスパイスなんだよ!」とさりげなく説明するという(笑)。自ら手を出したくなるように工夫してみると、苦手意識がある人でもトライできるかも。案外食わず嫌いだった、というだけで、食べてみたらおいしかった! というパターンもありますからね。

体の調子を整えたい人におすすめの「食事瞑想」

──今回の書籍では、「体の調子を整える」というスパイススープの効能についても書かれていました。カリー子さん自身、「スパイスに助けられたな」「スパイスに救われたな」と実感する瞬間はありますか?

印度カリー子:それはもう、すごく。毎日、スパイスに感謝しています。スパイスを毎日摂るようになってから、体調も安定しましたね。ちょっと風邪を引いたりしても、最悪なところまではいかないというか。仕事で死ぬほど忙しいときもスパイスさえ摂っていれば、回復が早くなったなと思います。

──スパイスにはさまざまな効能がある、と今回の本でも紹介されていましたよね。目からウロコの情報がたくさんありました。

印度カリー子:あとは、体調が悪い人や、メンタルが弱っている人には、「食事瞑想」もおすすめです。他の考え事をせず、一口一口ゆっくり食べることで、体に食べ物のエネルギーが溜め込まれていくのがわかる。「自分を大切にしているなあ」という喜びを得られるようになってから、心身のバランスをうまくコントロールできるようにもなりました。スパイスによって素材のおいしさがしっかり引き出されるようなスープレシピを考えたので、ぜひ不調が続いているという人にも試してみてもらいたいですね。

──ありがとうございます! お話をお聞きして、ますますスパイスに興味が湧きました。書籍のレシピとも合わせて、いろいろ試してみたいと思います!

さっそく実践! おうちデートが一気にグレードアップした!

印度カリー子さんのアドバイスをもとに、早速自宅でおうち飲み会を実践してみました。
カマンベールチーズやサンマの蒲焼缶など、おつまみ系メニューを用意し、食卓へ。
コリアンダーをさりげなく添えるのも忘れずに。いつもとは違う雰囲気で、なんだか、自宅にいるのにおしゃれなダイニングバルに来たような気分です。

カマンベールチーズ×コリアンダーの組み合わせはどんな感じなんだろう……と内心少し不安になりつつも口に運ぶと、お、おいしいっ!!
びっくりするくらい味が変わります。カマンベールチーズの独特の臭みがなくなり、ふんわりとしたすがすがしい香りが鼻を抜けていくのがわかりました。なるほど、「辛くない山椒」とカリー子さんがおっしゃったのも納得。スパイスが苦手だったはずの彼も、気がつけばいろいろなメニューにコリアンダーをかけて食べ始めました。

コリアンダーの魅力にすっかり取りつかれてしまった私たちは、ポテトや唐揚げなど、さまざまなものにコリアンダーをチョイ足ししてみたのですが、これがもう本当によく合う!
脂っこい揚げ物メニューでも、コリアンダーの清涼感ある香りが加わることによって、口に入れたときのもたつき感がなくなり、箸がどんどん進みます。
ビールとの相性も抜群で、コリアンダーひとつでおうち飲み会がここまでグレードアップした事実に、純粋にびっくりしてしまいました。
恐るべし、スパイスの魔法……。

それから約1週間。スパイスの使い方がなんとなくわかってきた私は、アドバイス通りにスパイス生活を続けています。『印度カリー子のスパイススープ』のレシピを参考に、なるべく毎日スパイスを取り入れるように心掛けていますが、食事をするのがとても楽しくなりました。
いつもスーパーで何気なく買っているほうれん草やカボチャやキャベツ。これまで何十回と作ってきた炒め物や煮物メニューばかりでマンネリ化してしまっていましたが、スープとして取り入れることで、素材そのもののおいしさを感じられるようになりました。つくるたびに、野菜本来が持つ甘みを味わい、ああ、おいしいなあ、と実感する日々です。

「スパイス」=「なんか独特の香りで食べづらいもの」「エスニック料理に使うためのもの」と思っている人にこそ、ぜひ試してほしい! 心からそう思いました。スパイスのことを知り、仲良くなれさえすれば、塩や胡椒と同じような感覚で気軽に使えるものなのだと思います。
毎日の食事が驚くほど楽しくなるスパイス沼。これからますます深く、ハマっていってしまいそうです。

プロフィール
印度カリー子。スパイス料理研究家兼タレント。スパイス初心者のための専門店 香林館(株)代表取締役。「スパイスカレーをおうちでもっと手軽に」をモットーに、初心者のためのオリジナルスパイスセットの開発・販売をする他、レシピ本執筆、大手企業と商品開発・マーケティング、コンサルティングなど幅広く活動。著書累計発行部数は28万部超(2021年12月現在)、全12作重版。
2021年3月東京大学大学院農学生命科学研究科 修了。JAPAN MENSA会員。1996年11月生まれ、仙台出身。
Forbes JAPAN 30 under 30「世界を変える30歳未満の30人」2021 受賞.

取材&文:川代紗生 編集:宮本珠希

世界文化社
2022年5月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

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