『日本の絵本 100年100人100冊』広松由希子著(玉川大学出版部)

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日本の絵本 100年100人100冊

『日本の絵本 100年100人100冊』

著者
広松 由希子 [著]
出版社
玉川大学出版部
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784472120145
発売日
2021/12/08
価格
7,700円(税込)

書籍情報:openBD

『日本の絵本 100年100人100冊』広松由希子著(玉川大学出版部)

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

時代映す いとしい絵本

 今の日本は、半世紀以上のロングセラーが売れ続ける一方で、年間約千タイトルもの新刊絵本が出版される絵本大国なのだそうだ。

 本書はタイトルどおり、そんな我が国の近現代の約百年間に出版された数多くの絵本から百冊を選び、時系列で紹介している。全てを網羅しようとすればきりがないので、百人(百組)の絵本作家につき一冊ずつと決めたという。驚くべきは、収録されている百冊全部が著者の本棚から選ばれていることである。つまり百冊まるまる著者のコレクションであり、永年手元に置いて読み込んできた愛読書ばかりということだ。だから必ずしもベストの状態の本ばかりではなく、写真でも傷みがわかるものもある。

 一つの出版ジャンルの歴史を振り返る企画として、これはかなり珍しいことだ。おかげで、ページを繰ると、一冊一冊に対する著者の愛情や思い入れ、その絵本とともに過ごしてきた年月の記憶までもが立ちのぼってくる。

 百冊の一冊目は一九一二年刊・杉浦非水の『アヒルトニワトリ』。杉浦非水は、後に日本初のグラフィックデザイナーと呼ばれる人だそうで、確かにこの本の絵柄は、一般的な絵本のイメージよりもシャープで大人びている。ここがスタート地点だなんて、絵本は格好いい。

 「戦争と出版統制は、近代の絵本史における黒歴史だ」。その一文があるのは、一九四一年刊行・恩地孝四郎『マメノコブタイ』のページ。戦意高揚を企図する序文と、作中で動き回る緑の豆の子たちの愛らしさの何というギャップ。

 全作に触れていたらこちらもきりがないので、ぽんと飛んで締めの百冊目は二〇一四年のミロコマチコ『オレときいろ』。鮮やかな色彩のなかで躍動する愛(いと)しき「オレ」と「きいろ」はさて何ものでしょう。絵本好きの大人読者はもちろん、子どもたちのために絵本をセレクトする立場の方には、ぜひとも本書をよき指南役として傍らに置いていただきたいと思う。

読売新聞
2022年4月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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