『人権と国家―理念の力と国際政治の現実』筒井清輝著(岩波新書)
[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)
ウクライナでロシア軍による民間人殺害が次々と明るみに出た。国連総会はロシアの人権理事会の資格停止を決め、反発したロシアは脱退を宣言した。国際人権はまさに今日的課題だ。
現状は悲観的だが、本書は希望に光を当てる。人類は時間をかけて自国以外の人権侵害にも関与することで、普遍的人権の意義を高めた。特に世界人権宣言以後、国際的な人権NGOの成長とともに、著者の言う「人権力」は徐々にだが確実に前進してきた。
国連の人権活動は、米・中・露のような常任理事国の都合でしばしば振り回される。これが国際政治の現実だが、どの国も人権そのものを否定することはない。
著者は日本の歩みにも触れる。日本は国際連盟での人種平等を提案、だが否決されアジア主義に急傾斜した。戦後はアイヌの先住民権獲得、在日コリアンの指紋押捺(おうなつ)撤廃などで重い腰を上げて国際人権の流れに歩調を合わせ、今では人権外交の必要も議題にのぼる。
国際人権の意義、歴史、進化、課題を明解に論じた好著である。今後のグローバルな世界に生きる若い世代に読んでもらいたい。