五色(いつついろ)のメビウス 「外国人」と ともにはたらき ともにいきる 信濃毎日新聞社編

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五色のメビウス

『五色のメビウス』

著者
信濃毎日新聞社 [編集]
出版社
明石書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784750353166
発売日
2022/03/03
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

五色(いつついろ)のメビウス 「外国人」と ともにはたらき ともにいきる 信濃毎日新聞社編

[レビュアー] 望月優大(ライター)

◆日本の「頼み」地方から警鐘

 外国人労働者について考えるとき、「日本人」と「外国人」という対比の背後に、国内の「都市」と「地方」というもう一つの文脈が常に透けて見える。日本社会が外国人の存在なくして成り立たないことと、都市生活が地方の産業なくして持続し得ないこととは表裏の関係だ。地方の発電所の停止が都市の電力逼迫(ひっぱく)を招くように、地方の農家や工場での人手不足は都市での品不足や価格上昇に直結する。

 本書はこの「地方」という視点に立脚し、信濃毎日新聞の記者たちが、外国人の生きる様々(さまざま)な現実を活写したルポルタージュだ。冒頭で取り上げられるのはスリランカ出身で当時三十四歳の男性と、タイ出身で二十九歳の女性。かれらは長野県小諸市の畑で命を失った。就労できない超過滞在の状態にあった二人は、サニーレタスの苗を植えている最中に落雷に遭う。その日は雷注意報も出ていたが、雇用主は「お願い、お願い」と作業の継続を要請したという。

 長い年月の中で、日本社会が頼みとする外国人労働者の受け入れ方は変化を遂げてきた。他地域でも見られる傾向だが、長野県でも、二〇〇〇年代までに主流となった日系人と入れ替わるように、最近は技能実習生が増加しているという。だが、そこに本質的な違いがあるわけではない。今に至るまで雇用の不安定さは変わらず、賃金も低いままで、日本社会や雇用主の都合ばかりが優先されてきた。

 取材班の独自アンケートで「日本がどんな国になってほしいか」と問われた外国人たちの回答には改めて目を開かされた。そのトップはほかでもなく「いつまでも長く働ける」こと。かれらの多くが日本で経験してきた「人間」としての生活や命の軽視は、他方にある「労働者」としての不安とも隣り合わせだった。

 本書は希望につながる事例も紹介している。だが同時に、雇う側のモラルと雇われる側の強さに寄りかかった受け入れ方には明らかに変革が必要で、その意思を「日本政府への提言」という形ではっきり示してもいる。今受け止めるべき「地方」からの警鐘だ。

(明石書店・1980円)

コロナ下の外国人労働者問題に切り込んだ信濃毎日新聞(長野市)のキャンペーン報道を書籍化。

◆もう1冊

西日本新聞社編『新移民時代 外国人労働者と共に生きる社会へ【増補】』(明石書店)

中日新聞 東京新聞
2022年4月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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