『名探偵は誰だ』
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懐かしくもおなじみの世界で徹底的に新しいミステリを 『名探偵は誰だ』著者新刊エッセイ 芦辺 拓
[レビュアー] 芦辺拓(作家)
「芦辺さん、どうもあなたは『作家』というものへのイメージが古いのじゃないか」と古なじみの編集氏に言われました。何でも、今どきの小説家は何歳になったとか何冊目の本が出たからと言って記念文集や自選作品集は出さないし、そもそも連載小説で必ず“ヒキ”をつけたりはしない。あと「視点」を厳正に守らないと売れっ子にはなれませんよ、と。
え、そうなんですか? ミステリ作家となったからには、ジュヴナイルと捕物帳もしくは伝奇チャンバラを書くもんであり、あとテレビの原作原案やアニメ脚本、そして舞台の推理劇も手がけねばと思って、幸い実現することができたのですが、どうも違っていたようです。やはり戦前の大衆文学と六〇年代までの娯楽映画ばかり見てたのがいけなかったか。
かといって、現代作家らしく学園ミステリとラブコメとライトノベル(これもちょっと違う?)の依頼を待ってても来る気配がないので、ここはもうわが道を貫くことにしました。
外資でもチェーンでもビジネスでもない小さなホテルがそこここに残り、グランドキャバレーのネオンは輝き、ヤクザではなくギャングが跳梁(ちょうりょう)し、安アパートは個性豊かな住人に満ち、怪盗や名探偵、そして殺し屋の伝説がほのかに残る懐かしくもおなじみの物語世界を描いてやろう。
そのかわり、ミステリとしては徹底的に新しく、これまでにないものに。ホテルの宿泊者からただ一人の非殺人者を、アパートの住人から逮捕予定者を、ナイトクルーズの乗客から伝説のガンマンの標的を選び出し、おばあちゃんの平穏を乱すものは、雪の山荘の生き残りは、怪盗は、探偵は誰なのかを問いかける―そんな、ひねくれきってはいるけれど正統本格をめざしたのが今度の『名探偵は誰だ』であり、これでなお芦辺拓を古臭いというなら言ってみろ! なのです。もっとも、こうした趣向づくし技巧まみれの一冊を創ることもまた、ミステリ作家の伝統に則したものなのですけどね。