『人類と神々の4万年史 Living with the Gods 上・下』ニール・マクレガー著(河出書房新社)

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人類と神々の4万年史 上

『人類と神々の4万年史 上』

著者
ニール・マクレガー [著]/高里 ひろ [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784309228464
発売日
2022/03/01
価格
4,180円(税込)

書籍情報:openBD

人類と神々の4万年史 下

『人類と神々の4万年史 下』

著者
ニール・マクレガー [著]/高里 ひろ [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784309228471
発売日
2022/03/01
価格
4,180円(税込)

書籍情報:openBD

『人類と神々の4万年史 Living with the Gods 上・下』ニール・マクレガー著(河出書房新社)

[レビュアー] 森本あんり(神学者・東京女子大学長)

宗教のなぜ 図解で氷解

 ほとんど図鑑である。ページを繰るごとに現れる大小のカラー図版とその解説を読むだけでも面白いが、この手の図書からするとまったく予想外なことに、地の文章も斬新で深く啓発的である。それもそのはず、本書は大英博物館に所蔵されている世界各地の珍品を題材として、専門家がBBCインタビューで語ったことを下敷きに書かれているからである。

 なぜ四万年なのか。それは、ドナウ川のほとりで見つかった氷河期の精巧な造形物のゆえである。マンモスの牙を彫って作られたその立像は、人間の体にライオンの頭が載っている。つまりそれは、自然界ではあり得ないものに形を与えた人類史的な記録であり、人間が経験を超える認知の飛躍を遂げた証拠である。

 「ライオンマン」は、過酷な生活の中で超自然的な力を渇望した人々がいて、この像を中心とする儀礼空間と共同体の物語があったことを示唆している。想像力を獲得した人類は、眼前の現実を超えて、宇宙の中で自分が占める位置を考える。ホモ・サピエンスはホモ・レリギオースス(宗教人)なのだ。

 四万年後の今、科学と経済の発展で世俗化するはずだった世界は、なお深く宗教的であり続けている。時節柄、伝統に従って十字架をつけたプーチン大統領が裸で入水する写真には考えさせられた。彼にとり正教会はロシアの魂であり、愛国心と一体化した国家宗教なのである。

 東洋や中東からの蒐集(しゅうしゅう)物も多いが、それは大英帝国の植民地支配を物語る。即位直後の美しいエリザベス二世を、鼻の穴から二匹のドジョウが出ているアフリカの国王神像と宗教学的に等置しているのは、せめてもの英国風諧謔(かいぎゃく)だろう。

 日本のことも何回か登場する。よく知られた長崎の二六聖人殉教図には、数えてみると二三人しか描かれていない。その理由を知って驚いた。他にも、なぜローマの処女神アルテミスが男性の力を表現できるのか、なぜアステカの神テスカトリポカの生け贄(にえ)が暴力の抑止につながるのかなど、いくつもの疑問が図解で氷解、というのが楽しい。高里ひろ訳。

読売新聞
2022年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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