『侵食される民主主義 Ill Winds 内部からの崩壊と専制国家の攻撃 上・下』ラリー・ダイアモンド著(勁草書房)

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侵食される民主主義 上

『侵食される民主主義 上』

著者
ラリー・ダイアモンド [著]/市原 麻衣子 [監修]
出版社
勁草書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784326351831
発売日
2022/02/19
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

侵食される民主主義 下

『侵食される民主主義 下』

著者
ラリー・ダイアモンド [著]/市原 麻衣子 [監修]
出版社
勁草書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784326351848
発売日
2022/02/19
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

『侵食される民主主義 Ill Winds 内部からの崩壊と専制国家の攻撃 上・下』ラリー・ダイアモンド著(勁草書房)

[レビュアー] 井上正也(政治学者・慶応大教授)

私利の政治 内なる脅威

 自由民主主義国家とロシアの権威主義体制との対決が鮮明になるなかで、これほど時宜を得た本の刊行はないだろう。

 「ミスター・デモクラシー」と呼ばれる著名な政治学者ラリー・ダイアモンドの初めての邦訳書である。アメリカにおける民主主義研究の知見を紹介しつつも、学術書のような堅苦しさはない。上下二巻という大部にもかかわらずとても読みやすい。

 著者は40年間のキャリアの中で、今が民主主義にとって最も危険な時期であると警鐘を鳴らす。多くの民主主義国家で市民の政治不信からポピュリズムが拡大しており、自由で公正な選挙や法の支配といった原則が脅かされつつあるという。

 大きくページが割かれているのは民主主義を侵食する権威主義国家の影響力工作である。ロシアは、情報機関がフェイクニュースを拡散し、様々な手段で民主主義社会の分断を図ろうとしている。一方、中国の手法はロシアよりも洗練されたものであり、豊富な資金を民主主義国家の企業やメディアに流し込み、自国の影響力を強化しようとしている。

 だが、著者の批判は民主主義社会に浸透を図る中露だけに向けられているわけではない。民主主義が死ぬときは単なる自殺ではなく、外部の敵対者が内部の民主主義を抹殺しようとする者を幇助(ほうじょ)する時だという。著者は、指導者が法の網をくぐり抜けて私腹を肥やす泥棒政治(クレプトクラシー)の蔓延(まんえん)こそが克服せねばならない内なる脅威なのだと指摘している。

 何より重要なのは、人々が民主主義を信頼し、それを生活様式として守る意思を持つことが、権威主義国家の影響力工作に対する最大の安全保障になるということだ。そして、民主主義への信頼を生むためには、自由かつ公正な選挙が行われ、人々に選ばれた政府が経済的繁栄を生み出し、その成果を共同体の構成員に広く行き渡らせねばならない。

 本書の明快かつ力強い語りは、著者自身の民主主義への揺るぎない信念を体現しているといえよう。市原麻衣子監訳。

読売新聞
2022年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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