『イントゥ・ザ・プラネット Into the Planet ありえないほど美しく、とてつもなく恐ろしい水中洞窟への旅』ジル・ハイナース著(新潮社)

レビュー

4
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イントゥ・ザ・プラネット

『イントゥ・ザ・プラネット』

著者
ジル・ハイナース [著]/村井 理子 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
歴史・地理/旅行
ISBN
9784105072513
発売日
2022/01/14
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

『イントゥ・ザ・プラネット Into the Planet ありえないほど美しく、とてつもなく恐ろしい水中洞窟への旅』ジル・ハイナース著(新潮社)

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

海底探検の感動と恐怖

 海深く。神秘的で美しい世界。簡単に行けないからこそ、見てみたい。表紙に始まり、著者が撮影した数枚の水中の写真に目を奪われた。だが本書は、女性洞窟ダイバーの半生を通して、水中洞窟の美しさだけではなく、同じかそれ以上に残酷さも鋭く描き出す。感動と恐怖が次々と押し寄せ、終始鳥肌が抑えられなかった。

 海底洞窟を探検することがいかに危険なことか。エベレストで命を落とした人数よりも多いという事実からも、死と隣り合わせであることが窺(うかが)い知れる。注意を喚起するために、水中に、死神の絵が描かれた大きな看板が置かれた場所もあるという。たった一つのミスで命を奪われかねない。肉体的にはもちろんだが、精神的にも大きな負担がかかるのだ。

 スイミングクラスでは泳ぐことよりも水中を観察することに興味があるような子供で、ついに水中探検家という望んでいた仕事に就いたはずなのに、酷(ひど)い事故や仲間の死に直面するたびに、夢を追うことの代償なのかとジレンマに陥る。だが著者は一つの考えに至る。<見果てぬ夢の存在を認め、それを追い求めることは、恐怖を喜んで受け入れ、応じるという意味>。こうして自分を改革していったのだ。

 尋常ではない経験によって生まれた考え方や言葉には感銘を受ける部分も多いが、本書の見どころは臨場感のある探検の場面。特に、南極を目指す「アイスアイランド」という章は必読だ。片道12日間の激しい道中から、氷山の下の、誰も味わったことのない恐怖と感動のダイビング。ともに船酔いして、凍(い)てつく寒さを感じ、未知の世界の美しさを見せてもらった。

 「二度とダイビングはしないように」と医師に言われても潜るのを止(や)めないくらいに、著者を魅了した水中世界の一片を体感できる一冊。洞窟ダイビングという男社会の中で、女性として、一人の偉大な探検家として、人間の限界に挑み続けた著者に心震える。村井理子訳。

読売新聞
2022年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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