『バカロレアの哲学 「思考の型」で自ら考え、書く』坂本尚志著(日本実業出版社)

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バカロレアの哲学

『バカロレアの哲学』

著者
坂本 尚志 [著]
出版社
日本実業出版社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784534059031
発売日
2022/01/28
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

『バカロレアの哲学 「思考の型」で自ら考え、書く』坂本尚志著(日本実業出版社)

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

理性的市民育てる教育

 「労働はわれわれをより人間的にするのか?」「技術はわれわれの自由を増大させるのか?」これらはフランスの高校生の試験問題の一例である。フランスの高校卒業・大学入学の資格認定試験であるバカロレアでは哲学がほとんどの受験生の必須科目となっており、制限時間4時間で解答することが求められる。なぜ哲学が必須科目なのか、そして冒頭の問いに高校生はいかに解答するのか、本書では詳細に解説される。

 もちろん何の準備もなくいきなり答えよと言うわけではなく、実はフランスの高校3年生は哲学を1年間学ぶようになっている。ただ試験は哲学の知識自体を問うものではなく、また自由に論ぜよというものでもない。哲学の授業を通して習得した「思考の型」を用いた解答ができているかどうかが評価のポイントとなる。「思考の型」とは、問題文中の用語や概念を定義し、問題文から派生する複数の問いを立て、肯定や反対など様々な立場の意見を十分に検討した上で、自分の考えを表現するプロセスである。多様な意見を理解し、時には同意し時には反論して共通理解を進める過程と言い換えても良い。

 これは民主主義社会における「市民」すなわち「理性によって考え、発言し、行動できる人間」として要ともなる考え方であり、哲学教育には「思考の型」習得による「市民」の育成という理念が存在する。ただフランス社会の現状を見る限り、その理念と現実にはやや乖離(かいり)があるようだ。しかしながら、最近の教育改革でも哲学は必須科目として残った。フランスでは「思考の型」の習得という理念は当たり前のものだからだと著者はいう。そして日本においても、フランスを参考としつつ、「反対意見を尊重し、可能な限り理解した上で、自分の立場の正当性を主張する」という「議論の組み立て方を繰り返し学び、身につけること」が重要であると結んでいる。市民教育のあり方を含め、広く日本の教育を考えるうえで参考となる一冊である。

読売新聞
2022年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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