『『ニューヨーク・タイムズ』のドナルド・キーン』
- 著者
- ドナルド・キーン [著]/角地 幸男 [訳]
- 出版社
- 中央公論新社
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784120054983
- 発売日
- 2022/02/09
- 価格
- 2,420円(税込)
書籍情報:openBD
「『ニューヨーク・タイムズ』のドナルド・キーン」ドナルド・キーン著(中央公論新社)
[レビュアー] 辛島デイヴィッド(作家・翻訳家・早稲田大准教授)
日本文学の翻訳、研究、海外普及に多大な貢献を果たしたドナルド・キーン。本書には、氏が1955年から87年にかけて、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した書評やエッセイが時系列に収められている。
主に日本文学の書評を依頼されていた氏も、世界で日本への関心が高まるにつれ、より広く日本文化を紹介することを求められる。
だが、日本の専門家・紹介者という立場に、ときには複雑な思いを抱いていたことも、60年代後半の痛快なエッセイで「告白」される。
角地幸男による邦訳は、キーンの英文の質感を見事に捉えている。が、テレビや日本語で書かれたエッセイなどで氏を知る読者は、そこに少しギャップを感じるかもしれない。生まれ故郷の「高級紙」の読者に向けて書かれた文章には、いい意味で(強い使命感や倫理観からくる)棘(とげ)があることも。
圧巻は、68年の川端康成のノーベル文学賞受賞後と、70年の三島由紀夫の自決後に書かれた2本。後者の追悼文の筆致は穏やかだが、そこから感じとれる書き手への圧倒的な敬意と、大切な友人を失った深い喪失感が心を打つ。